「虹、つどうべし」玉岡かおる氏
「播磨は一向宗が根強い土地ではありますが、官兵衛もそうだったように西日本ではキリスト教も広がっていたんですね。希久は想像上の人物ですが、戦国時代に女間者が活躍したこと、土地を渡り歩く女間者がキリスト教に触れる機会は十分にあり得る。そんな希久を語り部に内側の姿を描くうちに、長治の辞世の句『今はただ恨みもあらじ諸人の 命にかはる我が身と思へば』が、肉体は滅びても思いは残るというキリスト教の復活の精神と重なり、一本の線でつながりました」
物語は中盤から、食料が干上がるまで待ったことから「三木の干殺し」と呼ばれる悲惨な籠城戦へと舞台を移し、官兵衛から休戦工作の命をうけ、再び城に戻った希久の目を通して追い詰められていく城内の様子が描かれる。そして、希久と自分の非力を悔い責める長治の出会い。やがて長治は、希久が説く神の教えに触れるうち、決心を固める。
「長治は降伏の条件に、自らの命と引き換えに下の者たちの命が守られることを望んだ。家名を死守した戦国時代においてはまれなことです。実際には長治は信者ではなかったようですが、その精神、姿勢にはキリスト教義に通じるものを感じましたね。とかく勝者ばかりに光が当たりますが、亡くなった人がつないだ命があって今がある。作品を通してそんなことを感じてもらえたらうれしいですね」