「マモンの審判」宮城啓氏
「今回描いた、先物やオプション取引といったデリバティブを用いた横領手口は、悪意があれば実現可能です。株式投資は、株価が上がれば皆が儲かりますが、デリバティブは利益を得た人がいれば同額の損失を被る人がいるゼロサム。つまり、相場がゼロのマネーゲームなんですね。こうした投機的、拝金主義的な風潮は90年後半、日本の株式市場が自由化されたことを機に強まり、たとえば顧客に積極的な投機を誘い短期売買をくり返して手数料を稼ぐなんてことは、今や当たり前。ですから運用中の人は、証券会社の言いなりになるのは注意ですよ(笑い)」
外資系金融や投資の裏側といった現実を背景に描かれる本書は、“金”という化け物に魅入られた人々の群像劇のようでもある。金とは一体何なのか。捜査を進める中で、親友の死にまつわる事実を知った岸の心に変化が生じていく。
「儲けている人ほどさらに増やそうとする傾向が強く、お金に対する欲は際限がないものだと思いますね。私たちはずっと経済を追いかけてきましたけど、行き過ぎると自分の首を絞めることになりかねません。そろそろ経済成長すればハッピーという考え方を改め、別の幸福感を目指したほうがいいのではないか。そんなことを考えるキッカケになればうれしいですね」