「慰安婦問題」熊谷奈緒子著

公開日: 更新日:

 慰安婦問題の難しいところは政治と法、法と道義がからまり合っていること。今回の問題も2012年末には日韓両政府間で合意ができかけていたが、それぞれ衆院選と大統領選のために中断され、それが後に課題を残すことになったという。 

 国際関係論を専門とする著者は「慰安婦論争」の争点を洗い直す一方、慰安婦に類するものが他国や他の時代にあったかどうかを検証し、戦後の政府の取り組みやアジア女性基金による道義的補償の試みとその「失敗」、国際戦犯法廷の活動をたどっていく。現今の情勢下では最も客観的な「慰安婦問題研究」といえるだろう。ナチのユダヤ人狩りのような強制連行をしたという公文書はないが、それで慰安婦が「自由意思」によるとはいえない。元慰安婦でも人によって「補償」に対する態度は違う。歴史的な女性差別・搾取などの問題と照らし合わせた複眼的視点がなければ「強制」が「あった」「なかった」の水掛け論になってしまうのだ。

 問題の所在を最初に戻って確認・設定し直すために好適の本。

(筑摩書房 780円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」