「慰安婦問題」熊谷奈緒子著
慰安婦問題の難しいところは政治と法、法と道義がからまり合っていること。今回の問題も2012年末には日韓両政府間で合意ができかけていたが、それぞれ衆院選と大統領選のために中断され、それが後に課題を残すことになったという。
国際関係論を専門とする著者は「慰安婦論争」の争点を洗い直す一方、慰安婦に類するものが他国や他の時代にあったかどうかを検証し、戦後の政府の取り組みやアジア女性基金による道義的補償の試みとその「失敗」、国際戦犯法廷の活動をたどっていく。現今の情勢下では最も客観的な「慰安婦問題研究」といえるだろう。ナチのユダヤ人狩りのような強制連行をしたという公文書はないが、それで慰安婦が「自由意思」によるとはいえない。元慰安婦でも人によって「補償」に対する態度は違う。歴史的な女性差別・搾取などの問題と照らし合わせた複眼的視点がなければ「強制」が「あった」「なかった」の水掛け論になってしまうのだ。
問題の所在を最初に戻って確認・設定し直すために好適の本。
(筑摩書房 780円)