「無銭横町」西村賢太著
20歳を目前にした貫多は、3カ月過ごした横浜を引き払い、要町の安アパートに引っ越す。これまでの怠惰な生活を改めようと、心機一転を期して横浜に行ったのだが、失恋と失業で決意はもろくも砕け、東京に舞い戻って来たのだ。しかし、その間に貫多は、作家・田中英光の小説に出合い、かつてない興奮を覚え、以来、田中の小説が心の支えとなってきた。さっそく神田の古書店へ足を運んだ貫多は、田中英光の作品を入手。その後も日雇いの日当からわずかな金を積み立て、家賃も払わずに田中の初版本を買いあさる日々が続く。(「菰を被りて夏を待つ」)
無頼派私小説家の最新作を編んだ短編集。
(文藝春秋 1300円+税)