Kは東京を舞台にした長編戯曲〈エピタフ東京〉を書こうとしていたが、構想がわかない。あるとき、たまに寄るバーで、自分は吸血鬼だと称する吉屋という男に、東京の街の秘密を支配しているのは忘れられた死者だと教えられた。
Kは大手町にある将門塚、松戸にある東京都の霊園、八王子の昭和天皇の霊廟など、死者にまつわる土地を回るが、そんななか、ふと思いつく。東京の墓碑銘(エピタフ)として「あの頃はよかった。」はどうだろう? そして徐々に〈エピタフ東京〉が姿を現しはじめる。
Kの日常と吸血鬼・吉屋の日常、戯曲の世界が絡まり合う奇妙なファンタジー。(朝日新聞出版 1700円+税)