老後を考える本特集
「老人の極意」村松友視著
「時代屋の女房」に出てくる暮らしの場の古道具に引かれるように、著者は老人のあやしい魅力にハマっていく。編集者時代、6代目三遊亭円生師匠に落語のむずかしさを尋ねたとき「男が化粧をせずに女になる」ことと言われ、年をとるとは、それが自然にできることだと解釈する。なるほど。
作家の幸田文や吉行淳之介、馴染みの飲み屋やバーで出会う人生の先輩たちが丁寧に描かれる。彼ら彼女らの不可解な言動を、衰え、弱さ、危うさとだけ捉える浅はかさに気づかされる。あやしさは、年を重ねた特権的ユーモアなのではないか。そう思って観察していくと、違った風景が見えてくる。大阪新世界ジャンジャン横丁の道中で、しゃがみこみ、向き合って耳掃除をする3人の老人の目的は? 冷たく扱われた老婆が置いていったゆで卵の正体は? 書き下ろし30話は、いたずら心と優しさを備えた見事な年輪ばかり。遠戚のオバアチャンの究極のセリフも、ぜひ味わってほしい。(河出書房新社 760円+税)