青春がしみじみよみがえる読後感
「東大駒場寮物語」松本博文著(KADOKAWA 1800円+税)
ボロイ、汚い、薄暗いのネガティブ要素満載とされた東京大学駒場キャンパスに2001年まで存在していた寮の歴史と、そこに住んでいた人々が織り成す数々の珍事件やバンカラ騒動を、しんみりとした筆致で記したノンフィクションである。「オレたちの税金で安く住みやがって、このクソ特権階級東大生どもめ!」といった感覚を持つ方もいるかもしれないが、そう言わずに本書を読んでいただきたい。というのも、今のオッサン、爺さんが経験したような古き昭和のバンカラ学生生活が、そこには描かれているからだ。
東大というバイアスを持つことなく読み続ければ、「オレにもこんな時代があったなぁ……」と懐かしがる感覚を抱けるだろう。印象的なシーンを紹介する。駒場の商店街にあった寮生御用達のそば屋「山口屋」が量を減らしたり、値上げをした時のエピソードだ。
〈寮内では「山口屋対策委」という、大仰な名前の委員会が立ち上げられた。委員会は寮生にアンケートを取って、その結果をもとに山口屋と交渉する。山口屋の店主は、さぞびっくりしたことだろう。その結果、値段やボリュームは、以前のままに戻った〉