青春がしみじみよみがえる読後感

公開日: 更新日:

〈寮には「インポ合戦」という奇習が存在した。自室の窓を開け放ち、向かい合う寮棟に対して、「北寮インポ!」「中寮インポ!」と、大声で叫びあう〉

 どうですか、これ? 完全に、「東大生だから頭いい!」とは関係のない、ごく普通の若者の青春記に見えないか。これは旧制高校の寮生活を描いた「どくとるマンボウ青春記」(北杜夫)にも共通する、寮独自の妙な風習や、友情が表れている。

 昨今、息子や孫の大学へ行ってみると、そこには薄汚れた建物などあまりなく、野良猫もいない。下駄をはいて半纏を羽織った薄汚れた学内寮生も、もはやめったに見られないだろう。立て看板でさえもなくなっている。エレベーターに冷房も完備され、コンビニやファストフード店まで存在する。

 きれいではあるが、どこか整い過ぎている現在の大学はオッサン、爺さん世代にとっては隔世の感がある。本書は東大を舞台に描いてはいるものの、数十年前の学生のイキイキとした様子が生々しい証言や当時の報道などからよみがえり、懐かしさに浸れるのでは。その一方、終盤は消えゆく寮が公権力と闘う姿が描かれ、途端にハードボイルド調になるさまも良い。★★★

(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  3. 3

    参院選で自民が目論む「石原伸晃外し」…東京選挙区の“目玉候補”に菊川怜、NPO女性代表の名前

  4. 4

    NiziU再始動の最大戦略は「ビジュ変」…大幅バージョンアップの“逆輸入”和製K-POPで韓国ブレークなるか?

  5. 5

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  1. 6

    サザン桑田佳祐の食道がん闘病秘話と今も語り継がれる「いとしのユウコ」伝説

  2. 7

    我が専大松戸の新1年生は「面白い素材」がゴロゴロ、チームの停滞ムードに光明が差した

  3. 8

    逆風フジテレビゆえ小泉今日子「続・続・最後から二番目の恋」に集まる期待…厳しい船出か、3度目のブームか

  4. 9

    新沼謙治さんが語り尽くした「鳩」へのこだわり「夢は広々とした土地で飼って暮らすこと」

  5. 10

    石橋貴明のセクハラ疑惑は「夕やけニャンニャン」時代からの筋金入り!中居正広氏との「フジ類似事案」