「EU消滅」浜矩子氏
「今、EUもユーロ圏も、すべてがドイツ依存、ドイツ次第になりつつあります。先ごろの難民受け入れ問題にもその一端が見て取れます。しかし、大英帝国時代のパックス・ブリタニカや、戦後のパックス・アメリカーナのように、突出して強き者の覇権が秩序と安寧をもたらすといった状況とは異なります。圧倒的な突出ぶりではないにもかかわらず、EUはドイツ抜きでは何も決まらない状況に陥っており、“疑似パックス”の役割を果たさざるを得ない。これが、EU消滅のひとつの要因となっています」
■EUから学ぶ格差が広がる日本のあり方
かろうじて今、EUが保たれているのは、ドイツのメルケル首相が女性であり、科学者であり、旧東ドイツ出身であるという3点において、他の政治家とは一味違う高い客観性や共感性を示しているためだ。メルケル首相だからこそEUは延命を続けており、そのために消滅すべき時期を逸して状況を悪化させているともいえると著者。
「私たち日本人にとっては、EU消滅による経済的打撃への対策もさることながら、EUの国々の関係性から何を学び取ることができるかも重要です。日本も格差が広がり、人々の求めるものが多様化したことで、ひとつの国としてどう求心力を保っていくかという問題に直面しています。未来を展望するためには、歴史を知ることが不可欠。EUの風景には、遠く離れた島国である日本にとっても、多くの示唆があるはずです」(朝日新聞出版 1300円+税)