「原節子の真実」石井妙子氏
撮影所では本ばかり読み周囲と打ち解けなかったことで、“取り澄ましている”“生意気な大根女優”などと批判の的にされたこともあった。しかし彼女は、こと演技に対しては驚くほど率直に意見を述べ、自分の姿勢を決して崩さなかった。
「やがて、名だたる監督たちが原節子で映画を撮りたいと願うようになります。彼女を生かせるのは自分しかいないと、対抗意識をむき出しにした男たちの争いも始まるほどでした。原節子という女優はただ絶世の美女だったというだけではなく、作り手の意欲をかき立てる魅力も秘めていたのでしょう」
原節子が伝説たる大きな要素が、生涯独身を貫いたことだ。小津安二郎との純愛説や、義理の兄とのただならぬ仲など、彼女の周囲には常に“原節子の男は誰だ”という下世話な視線が付きまとった。
「“あれほどの美女に男がいないわけがない”というのが、世の男性たちの思いなのかもしれません(笑い)。しかし、彼女はもっと別の次元にいて、男性がいなければ幸せになれない女性ではなかった。小津安二郎に関しても出演作すら批判するなど、決して恋仲などではなかったようです」