「帰郷」浅田次郎著
戦争が終わって3カ月、新宿駅近くの闇市の片隅に立つ街娼の綾子は、体を売って日々をしのぐ自分が野良猫以下の生き物に思えて仕方ない。目の前の駅から汽車に乗れば、故郷に帰るのはたやすいが、それは死者が蘇るほど無理な話だった。物思いにふける綾子に、男が声をかけてきた。復員兵の格好をした男は、金を払うから話し相手になってくれという。連れ込み旅館に向かう途中、軍隊毛布をかけてくれた男のやさしさが身に染みる。何日も話し相手を求めて闇市をさまよっていたという男は、庄一と名乗り、帰郷したものの家族と会わずに東京に舞い戻ってきた理由を語りだす。(「歸郷」)
戦争によって人生を引き裂かれた男たちを描く短編集。(集英社 1400円+税)