強権体制に君臨するロシア大統領プーチン。その権力の実相に元モスクワ特派員が迫る
「プーチン露大統領とその仲間たち」塩原俊彦著
旧ソ連の悪名高い諜報機関KGB。かつてプーチンも勤務し、FSB(連邦保安局)となったいまはプーチン体制の先兵だ。著者は今年2月、モスクワでFSBに突然拘束され、長時間の尋問を受けた元朝日新聞モスクワ支局員の大学教授だが、ロシアの軍事情勢の分析本を公刊して目をつけられたらしい。
本書はこの顛末を皮切りに旧KGB人脈が現代のロシアでもいかに特権を手にし、巨大な腐敗の構図を築いているかを明らかにする。冷戦崩壊でKGBは用済みと思われたが、敵を資本家からマフィアに切り替えて延命。しかもKGB時代にマフィアは協力者だったから、この関係の内実はお手盛りの癒着。さらに多くの省庁や企業に旧KGB系の「軍人」が多数配属され、役所や企業と「活動予備隊」の両方からの給与を得られる制度まである。
またプーチンは柔道の愛好家として知られるが、サンクトペテルブルクの「柔-ネヴァ」という柔道クラブの人脈も利権ネットワークと重なっているらしい。(社会評論社 1700円+税)
「プーチンとG8の終焉」佐藤親賢著
94年、米英仏独日伊の「先進国首脳会議」を拡大したG7(先進7カ国会議)にロシアが参加し、G8が発足した。当時のロシアは西欧追随のエリツィン体制。しかし高度成長を達成し、軍備増強に力を入れるプーチンはG8には興味を示さず、しばしば会議を欠席。昨年はクリミア編入問題を理由に出席停止を食らってもいるが、プーチンは意に介さない。米ロが激しく対立するウクライナ危機は国連安保理の限界を露呈させ、ブッシュ政権以来の米国の威信低下をも鮮明にした。
共同通信元モスクワ特派員の著者は、右傾化の先行き不鮮明なロシアと漂流する世界の不安定さを鋭く描き出す。(岩波書店 800円+税)
「帝国自滅」石川陽平著
強権体制を敷いて盤石に見えるプーチン・ロシアだが、元日経新聞モスクワ支局員の著者によれば、嫌気の差した優秀な人材が次々流出し、資本や企業の流出も止まらないという。プーチンの操り人形のように見えた前大統領メドベージェフは民法学者で、市民運動にも理解があった。しかしプーチンが大統領復帰を発表すると市民運動は一斉に反プーチンを表明。これに怒ったプーチンは「偉大なロシア」のナショナリズムに訴え、市民権を重視する「欧米モデル」との対決に打って出たのだ。自由を制限され、権力者の腐敗を許しても「国家の誇り」にすがりたがるさまはどこかの国を思わせるが、そういえば両国の首脳は不思議にウマが合うらしい。(日本経済新聞出版 2200円+税)