久しぶりに華のある政治評論家の誕生を予感
「冤罪 田中角栄と ロッキード事件の真相」石井一著 産経新聞出版 1400円+税
本書の著者は田中角栄を“オヤジ”と呼び、田中派の一員として常に角栄のそばでボディーガードのように寄り添ってきた。
初めて目白の田中御殿でオヤジと会ったときの記述がすごい。〈田中との会見はほんの四、五分でしたが、帰り際に握手を交わすと、背広の内ポケットからパッと封筒を出して私にくれました〉〈すぐに田中邸の前にある電話ボックスに駆け込み、封筒の中を数えると三十万円が入っていました〉
現在の貨幣価値に換算してざっと300万円をいきなり初対面の男に渡してしまう豪快さと金権ぶり!
そのオヤジが世紀の大疑獄・ロッキード事件被告人になっても、著者は角栄に寄り添うのだ。
〈ロッキード事件は、明らかに、米国政府、日本政府、最高裁判所、東京地検特捜部や当時のマスコミが作り上げた「反角」の世論による、歴史に残る汚点であり、起訴された事件の九九・九%が有罪という日本の刑事事件の特異性の毒牙にかかった〉冤罪と断言する。
著者は2009年に起きた厚労省郵便不正事件に巻き込まれる。虚偽公文書作成・同行使の容疑で村木厚子局長が逮捕されたのも、最終的には石井一を狙ったものであり、さらに小沢一郎・民主党潰しを狙ったものだという説がある。
石井一というと、公明党タブーを打ち破った国会質問や舌禍が思い浮かぶ。震災後、海外でゴルフをやっていたことが知れ、役職を辞任した。だがゴルフ好きが危機を救う。郵便不正事件の際に、アリバイを問われ、たまたま手帳につけていたゴルフのプレーが証拠となった。検察が意図的に証拠を改ざんしていた驚愕の事実も暴露された。
角栄擁護の頑迷な保守主義者の一面もあれば、民主党副代表というリベラル面もある石井一こそ、強面の風貌も相まって、久方ぶりに華のある大物政治評論家の誕生を予感させるのだ。