著者のコラム一覧
佐々木寛

1966年生まれ。専門は、平和研究、現代政治理論。著書(共著)に「市民社会論」「『3・11』後の平和学」「地方自治体の安全保障」など多数。現在、約900キロワットの市民発電所を運営する「おらってにいがた市民エネルギー協議会」代表理事、参院選新潟選挙区で野党統一候補を勝利に導いた「市民連合@新潟」の共同代表。

「おまかせ安全保障」からの脱却

公開日: 更新日:

「市民力による防衛」ジーン・シャープ著(法政大学出版局 3800円+税)

 よく、「北朝鮮や中国が日本に攻めてきたらどうする!」と問われることがある。どうなるかよく考えてみる。もし何もしなければ、占領されるかもしれない。けれども占領後、人口1億人以上の先進国をどのように支配するのか。侵略者はまず、複雑な官僚機構を動かすために、日本語をしっかりと勉強しなければならないだろう。そして何より、自分たちの支配が1億人以上の国民にごく正当なものであることを信じ込ませなければならない。

 冗談のような思考実験であるが、現代の安全保障問題のある本質を浮き彫りにしている。「敵」の攻撃を「抑止」する力の中で、軍事力は依然として大きな役割をもつのかもしれない。しかし実際には、それ以外にもたくさんの政治的・社会的「抑止力」が存在する。

 本書は豊かな歴史的経験の中から、市民の非暴力的な実践が、社会に対する不当な脅威を十分にはねかえす力をもっている事実を明らかにする。注目すべきは、この脅威とは、何も国の外からやってくるとは限らないという真実である。クーデターや独裁、自国軍や警察による暴力もまた、当然私たちの脅威となりうる。

 著者によれば、準備され訓練された「大規模な非協力と公然たる拒否」によって、支配権力を「餓死」させることができる。たとえ一時的な弾圧があったとしても、それを新たな連帯や抵抗の力とする「政治的柔術」によって、逆手に取ることもできる。軍事力に頼らない市民による社会の防衛と安全の実現は可能なのだ。

 このような議論に、「現実を無視した甘い議論」、あるいは全く逆に、「非暴力論にしては戦略的すぎる」という反論がありうる。しかし本書を読めば、まず著者の構想が長期的にはいかに「現実的」であるのか、そして非暴力という理想がいかに徹底的につきつめられているかがわかるだろう。エネルギーや食糧、社会福祉などと同様、「安全」についても、私たちは「おまかせ」主義から脱却すべき時代を迎えている。

【連載】希望の政治学読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  2. 2

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    竹内涼真“完全復活”の裏に元カノ吉谷彩子の幸せな新婚生活…「ブラックペアン2」でも存在感

  5. 5

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  1. 6

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7

    二宮和也&山田涼介「身長活かした演技」大好評…その一方で木村拓哉“サバ読み疑惑”再燃

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    小池都知事が3選早々まさかの「失職」危機…元側近・若狭勝弁護士が指摘する“刑事責任”とは

  5. 10

    岩永洋昭の「純烈」脱退は苛烈スケジュールにあり “不仲”ではないと言い切れる