「生きていくうえで、かけがえのないこと」吉村萬壱著
著者は幼いころ、双子の弟と一緒に寝ていて、弟が目を開いて眠っているのに気づいて驚く。のぞきこむと目が合うのだが、弟はどこか別の世界を見ている。寝床でしゃべっていたとき、ふと静かになったと思ったら、弟が寝息を立てて寝ていた。そのとき、一抹の不安を感じ、弟はどこへ行ったのかといぶかった。著者は3年半前に小説家になったが、いったん目覚めてまた眠りに落ちるときは、自分は既に半ば死んでいるのではないかと思う。眠りというものはこの世ならぬ異界とつながっているに違いない。(「眠る」)
若松英輔氏の企画で、2人が同じテーマに取り組んでつづった、同じ書名のエッセー集も同時発売。(亜紀書房 1300円+税)