3K業種を「優良企業」に変えた産廃会社の女社長
その工場は、ホタルの生息する美しい里山に囲まれ、小学生の社会科見学の聖地となっている。いったい何の工場かといえば、何と産廃会社のリサイクル施設。キツイ、汚い、危険という3K業種の筆頭のイメージだが、まるで別世界だ。
石坂典子著「五感経営 産廃会社の娘、逆転を語る」(日経BP社 1600円+税)は、年間1万人以上の視察者を集める優良企業、石坂産業が現在の姿になるまでの記録。30歳で父の経営する産廃会社の社長に就任し、経営に大ナタをふるった著者による経営論でもある。
著者が荒っぽい男ばかりの企業のトップに立ったのは2002年のこと。同社のある埼玉県内の産廃会社が起こした、ダイオキシンを巡る問題がきっかけ。濡れ衣を着せられ、地域住民からの糾弾にさらされる中、著者は真摯に仕事と向き合ってきた父に代わり、会社の存続を図るための改革に乗り出す。
まずは地域の嫌われ者から脱却するため、2億円を投じて工場見学用の通路を新設。包み隠さず事業を公開した。今でこそ子供たちに人気の見学施設だが、当時やってくるのは環境保護団体の関係者ばかり。あらを探して廃業に追い込もうという敵意がむき出しだった。しかし著者は、“冷めた無関心”よりも“熱意ある批判”を求めていた。徹底的に見学を受け入れ、批判を指摘ととらえて改革を進めていった。
また、カリスマ経営者だった父の時代のトップダウンから、社員の意見をすくい上げるボトムアップに切り替えた。社員と思われる人物により、2ちゃんねるに「自分で何も考えられない2代目」などと書き込みされたこともあったという。しかし、根気よく耳を傾け続けることで社員の自主性を育てていった。
さらに、顧客にも礼儀を求め、産廃を搬入してくるトラックの運転手にマナーを指導。守れない運搬会社との取引を切るという思い切った改革も断行した。10年以上にわたる奮闘で、地域に愛され、世界が注目するリサイクル会社に生まれ変わった同社。現代日本の閉塞感を打ち破る爽快な実話だ。