図書館地下の閲覧室に羊男
「ふしぎな図書館」村上春樹著、佐々木マキ/絵 講談社文庫 530円+税
【話題】村上春樹の久々の長編「騎士団長殺し」が話題となっているが、その書評の多くが、「自分探し」「深い穴から通じる地下世界」といった村上作品の長年のモチーフがこの新作にも繰り返されていると指摘する。本書は短いながら、やはり同じモチーフが描かれている。
【あらすじ】市立図書館に来た「ぼく」は、貸し出しコーナーの女性に「本を探しているのですが」と問うと、階段の下の107号室に行くように指示された。長い階段を下りていくと、確かに107と書かれたドアがある。この図書館に地階があったかなと不思議に思いつつドアを開けると、分厚いレンズの眼鏡をかけた小柄な老人が座っていた。
老人に「オスマントルコ帝国の税金のあつめ方について知りたいんです」と言うと、老人は3冊の古そうな本を部屋の奥から持ってきた。ところが、その本はどれも貸し出し禁止で、図書館の中で読むのならいいと、老人は自分についてこいという。
複雑な地下の迷路を行くと、その先に閲覧室があった。中に入ると、奥から羊の格好をした男が現れ、老人は部屋の鍵をかけて出ていってしまった。羊男によると、老人はここで本をすべて丸暗記させ、脳が知識でいっぱいになったところで、頭をかき切って脳みそを吸うのだという。だまされたのだ。鉄の足かせを着けられたぼくは泣くしかなかったが、そこへ美しい女の子が現れた。声帯を潰されて話すことができない彼女は、身ぶりで一緒に逃げようという。彼女のことを羊男に話すと、そんな人は見たことがないという。果たして、ぼくはこの図書館の地下から脱出することができるのか……。
【読みどころ】全編を飾る佐々木マキの絵が春樹ワールドを華やかに演出する、ファンタジー作品。〈石〉