著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

東京マラソンは江戸の参勤交代とそっくり

公開日: 更新日:

「『参勤交代』の不思議と謎」山本博文/監修 実業之日本社 800円+税

 トップ選手ばかりテレビに映るが、東京マラソンを楽しむなら終盤の仮装ランナーを見物するのも楽しい。背中に「愛媛」と書かれた全身オレンジタイツに頭にはミカンのかぶり物をしたランナーに続いて、元気なりんご集団、大阪の通天閣、北海道の牛乳パックが走り去っていく。その後方にシッポをバタバタと振りながら走ってくる着ぐるみが……あれは高知のカツオではないか。

 今年はコースが変更になってしまったが、私の暮らす築地は魚に優しい。「カツオ、がんばれー!」と声援が飛び、カツオも手を上げて応えている。東京マラソンは、地方の特産品や観光を紹介する新しいPR手段なのかもしれない。

 この東京マラソンと参勤交代がぴったり重なるから面白い。

 加賀藩は4000人の大行列を組んで財力を見せつけ、「伊達男」の語源となった仙台藩はやりに白鳥の羽飾りや猿毛の飾り盾という奇抜かつ豪華な衣装や道具で現れ、幕府も江戸の庶民も驚いた。時には琉球王国や長崎の出島で暮らすオランダ人も民族衣装で登場し、大いに盛り上がったという。参勤交代は各藩の特色や力を示す絶好の機会だったのかもしれない。

 そして、将軍へは各藩お国自慢のお土産を用意。彦根藩は牛肉の味噌漬け、薩摩藩は琉球紬。東京ではカツオが走っていたが、土佐藩は江戸の将軍にカツオ節を献上したらしい。地方の特産物が江戸に集まり、その情報はまた地方に流れていく。

 幕府に忠誠を誓い、散財する参勤交代は内心、腹立たしいが、どうせなら江戸城内を年に一度のランウエーと割り切り、お金をかけたのだろう。その裏では宿泊や食事、人夫の手配、通行する藩への挨拶や手土産など、遠い藩では1カ月に及ぶ長旅を、経費節減に頭を抱えながら家臣がコーディネートする。今も昔もサラリーマンの苦労は変わらないが、藩同士の付き合いやPR方法、お金のかけ方など参勤交代から学ぶことはたくさんあると思わせる一冊だ。

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    野呂佳代が出るドラマに《ハズレなし》?「エンジェルフライト」古沢良太脚本は“家康”より“アネゴ”がハマる

  3. 3

    岡田有希子さん衝撃の死から38年…所属事務所社長が語っていた「日記風ノートに刻まれた真相」

  4. 4

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希にまさかの「重症説」…抹消から1カ月音沙汰ナシで飛び交うさまざまな声

  1. 6

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  2. 7

    「鬼」と化しも憎まれない 村井美樹の生真面目なひたむきさ

  3. 8

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 9

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方