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「世界の犬の民話」日本民話の会・外国民話研究会編訳

 今日5月13日は愛犬の日。空前の猫ブームで、話題も消費も、中心にいるのは猫ばかりでやや肩身が狭い犬派の人におすすめの最新5冊だ。読めば「やっぱり犬が好き!」と再確認できる本から、犬の才能に改めて驚愕する本、感涙必至の感動作まで、出合えてよかったと思える一冊が見つかるはずだ。

 世界中に流布する民話・昔話で、犬が登場する物語を収集。オオカミやジャッカル、コヨーテも含めた「犬族」が人間にとってどのような位置づけで語られてきたのかがわかる。

 犬といえば、献身的で人間に忠実といったイメージがあるが、世界の昔話などをひもとくと、必ずしもそうとは限らない。残酷な仕打ちや仕返しをする犬や、悪魔や疫病神など、人間に死や不幸をもたらす象徴とされている民話があるのだ。

 アイルランドの「悪魔と暮らしていた男」もそのひとつ。ウェールズに住む男が利口な一匹の犬を飼っていた。あるとき男の母親が病気になり、それを機に犬の姿が消えた。見舞いに来た神父がベッドの下にいる犬を見つけるが、実は犬に姿を変えた悪魔だった……というホラー映画のような話や、犬が狡猾な怠け者として描かれた「犬は穀物、豚は糠」(中国)など、やや犬不信に陥りそうな民話もある。

 また、人間を小馬鹿にする犬たちの逆襲を描く物語もある。

 犬にさまざまな業を背負わせたり、語らせたりする人間はなんと勝手な生き物かと反省させられる。アジアからヨーロッパまで96の伝承を収録。(筑摩書房 980円+税)

「ラブラドール」ベン・フォーグル著、川村まゆみ訳

 英国で活躍するタレントが、愛犬との思い出をつづりながら、ラブラドールレトリバーという犬種の歴史や生態、才能について調べた渾身の一冊。

 執筆に至ったそもそものきっかけは、著者がテレビ番組「キャストアウェイ」に参加したこと。1年間離島で暮らすサバイバル企画で、著者は愛犬のインカを連れていく。インカのおちゃめな振る舞いが一躍有名になり、冒険家としての仕事が激増、そして妻とも出会ったのだ。まさに犬サマサマ。

 そんな著者が犬への恩を込めて、ラブラドールが世界中で愛される理由を探っていく。映画俳優や首相・大統領が飼う犬も実はラブラドールが多い。狩猟犬として英国王室に仕えるだけでなく、盲導犬や介助犬としても活躍。麻薬や爆発物を探知したり、がんを発見する才能も世界的に認知されてきた。自閉症の子供をサポートする力も発揮。ラブラドール愛好家は必読の書だが、インカの死を乗り越える著者の姿には涙が止まらなくなる。

(エクスナレッジ 1800円+税)

「戦場に行く犬」マリア・グッダヴェイジ著、櫻井英里子訳

 戦争に駆り出されるのは人間だけではない。過酷な訓練を受けた優秀な犬も「兵士」として戦地に赴いている。当然、戦死もする。これは人間や機械で察知できない薬物や爆発物を探知するなど、重要な使命を果たす軍用犬に焦点を当てた本だ。

 著者自身も愛犬家だ。軍用犬取材にあたって自問自答している。「人間同士が対立して起こした戦争で、なぜ犬が死んでいかなければならないのか」と。納得のいく答えは出ないが、軍用犬とハンドラー(指導手)の深い絆に触れ、犬の幸せを真摯に考察していく。

 一般人にはなかなか知ることができないアメリカの軍用犬育成の全貌を明かしつつ、イラクやアフガニスタンに派遣された犬とハンドラーの物語が心を打つ。ベトナム戦争時の軍用犬は置き去りか安楽死だったが、今は違う。退役した軍用犬は一般家庭への引き取りも可能になり、手厚い医療ケアも保証。活躍した犬は引き取り手も殺到するそうだ。読後、複雑な思いになる。

(晶文社 2500円+税)

「犬から聞いた素敵な話」山口花著

 犬にまつわる感動短編エッセー集のシリーズ第3弾。前半は犬と出合って勇気をもらった、人生が変わったという「飼い主から愛犬へ」、後半は犬が一人称で飼い主に語りかける「愛犬から飼い主へ」バージョンの2部構成になっている。犬を飼っている人、愛犬を失った経験がある人には、感涙必至のエッセー集だ。

 飼い主が闘病する身になった際、犬が勇気づけてくれた話、交通事故で瀕死の犬を救ったことで人生が一変した話。そして「犬のしつけがうまくいかない」話などが並ぶ。

 甘噛みどころか本気噛み、興奮状態になる犬に対して、飼い主が学んだのは「本当は臆病で怖がり」だったこと。犬を飼っている人が陥りがちな過保護マインドに気づかされるのだ。

 後半は犬が主語という時点で、やや甘い感傷的な展開だが、犬の飼い主の共感を誘い、満足感を高めてくれる。ペットを飼う人はみな、心の中で物語を紡ぐものである。(東邦出版 1389円+税)

「きみがぼくを見つける」サラ・ボーム著、加藤洋子訳

 虐待され捨てられた動物が収容されているアニマルシェルターを訪れた「ぼく」が「きみ」を引き取るところから、この物語は始まる。

 ぼくは57歳。一からやり直すには年を食いすぎているが、人生を諦めるほどの年ではない。白髪交じりの黒髪は三つ編みにして、岩のような背中に垂らしている。汚れた歯は黄土色、体臭もちょっときつい。きみは痩せ細り、左目がない犬だ。左目があったところには大きな傷痕がある。口全体が下がり、しかめ面で薄気味悪い。シェルターでは凶暴な犬とされ、処分寸前だった。

「ぼく」は父ひとりに育てられた。学校には行かず、本だけは読んだ。友達もおらず、恋に落ちたこともない。片目の犬をワンアイと名付け、ともに暮らし始める。自分の過去を犬に対してとつとつと語っていくが、徐々に明らかになる秘密。孤独ゆえの強さは、無縁化・高齢化した今の社会の象徴とも。世間から誤解されがちの独身男性には、優しい言霊が響く。

(ポプラ社 1800円+税)

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