「冬雷」遠田潤子著
日本海に面した小さな町、魚ノ宮。孤児だった代助が町の名家・千田家の養子になったのは11歳のとき。跡継ぎとしてようやく落ち着き場所を得たと思った代助だが、間もなくして義弟が生まれた。
跡継ぎという地位はなくなったものの、千田家と代々深い関係のある鷹櫛神社の巫女・真琴という恋人もでき、将来に希望を託していた代助に悪夢が訪れる。幼い義弟が行方不明になり、代助が犯人と疑われたのだ。
町を出てから12年。行方不明だった義弟の遺体が見つかったという知らせを受け、代助は久しぶりに魚ノ宮を訪れるが、町の人たちはいまだに彼を疑っており、皆が白い目を向けてくる。唯一声をかけてきたのは、代助に失恋したといって自殺した愛美の兄・龍だ。自分を恨んでいるはずの龍がなぜ? 龍に愛美の遺書を見せられた代助は、あることに気づく……。
因習的な町にまつわる伝説を基調に、孤独な青年の心情と失踪事件に秘められた謎とが交錯していく。著者の力量の程を知らしめる傑作。(東京創元社 1800円+税)