ジェット機を進化させていたのは鶏肉だった!?
軍需産業といえば“死の商人”などと呼ばれ、物騒なばかりだが、メアリー・ローチ著、村井理子訳「兵士を救え! 珍軍事研究」(亜紀書房2300円+税)で紹介されるのはなぜかクスリと笑ってしまう事例ばかり。サイエンスライターである著者が、兵士を殺すためではなく、生かすための軍事研究をリポートしている。
アメリカのとある基地で行われていた実験では、ジェット機に向かって約1・8キロの“砲弾”が繰り返し撃ち込まれていた。時速650キロという異常な速度で放たれていたそれは、おいしそうな「鶏肉」だ。アメリカ空軍のジェット機は、年間3000回も「バードストライク」に見舞われる。その被害総額は、年間5000万ドルから8000万ドルにも及び、パイロットの命が奪われるケースもある。衝突してくるのはガチョウにカモメにカモとさまざまだが、家畜であるニワトリは、これらの野鳥よりも肉の密度が高く、“砲弾”として非常に優秀。そのため、ジェット機用コックピットの耐久テスト用公式素材として承認されており、チキン砲となって空を飛び交い、日々、研究を前進させているそうだ。
本書には最新の殺傷兵器に関する研究は出てこないが、絶対に遭遇したくないある兵器が紹介されている。著者が入手したアメリカ軍の機密文書の日付は、1943年8月4日。その兵器は農薬噴霧器のような装置に入れるなどして使用する油性化合物で、対日本のために開発されたものだという。化学兵器か何かだと思いきや、目的は殺傷ではなく「物笑いの種にされて軽蔑されること」。主成分はスカトールといい、肉が分解されるときに発生する腸内細菌の糞便臭。早い話が、ウンコの臭いの異臭弾だ。
アメリカの戦略諜報局によれば、日本人は「大衆の面前で排尿するのは平気(立ち小便のことか?)だが、排便だけはとても秘密で恥ずかしいことだと考えている」と分析されており、ウンコの臭いをつけてやれば戦意喪失すると思われていたらしい。
ほかにも、スナイパーのための下痢対策や海に落ちてもサメに食われない方法などユニークな研究が満載。どこかほのぼのせずにはいられない。