「変わらなさ」に向き合うことで現実を「変えていく」
「福祉は『性』とどう向き合うか 障害者・高齢者の恋愛・結婚」結城康博ほか著 ミネルヴァ書房/2200円+税
今から10年前の2008年、私は男性重度身体障害者に対する射精介助を行う非営利組織を立ち上げた。
脳性まひや神経難病による手足のまひや拘縮によって、自力での射精行為が困難な男性に対して、介護や看護の資格を持ったケアスタッフを自宅に派遣し、射精の介助を行うという訪問介護型のサービスだ。
10年間、現場で障害のある人の性に向き合い続けたことで得られた感想は、障害者の性の問題は、当事者個人の問題ではなく「社会の問題」であるということだ。
年齢や環境に見合った性教育の欠如、セクハラや性暴力被害に対する支援制度の不備など、私たちが生きている社会には個人の性の健康や権利を脅かすさまざまな欠陥がある。そうした欠陥が最も端的かつ暴力的な形で表れるのが、障害者や高齢者といったマイノリティーの世界だ。本書の中では、障害のために思うように性愛にアクセスできない人たち、加齢に伴う性的困難に悩む人たちの姿が描かれている。私たちの社会が性の健康と権利を無視してきたツケが、マイノリティーの人たちにのしかかっているわけだ。
そうしたマイノリティーの人たちに対する性的抑圧を解消するためには、私たち自身、そして社会の側を変えていかなければならない。
そのためにはどうすればいいか。その答えは、残念ながら本書の中には書かれていない。現状の確認や問題提起にとどまっている。障害者の性や高齢者の性が「古くて新しい問題」であり続けているのは、「社会の問題」であるがゆえの解決の難しさが理由なのかもしれない。
こうした現実に対して、私たちが取るべき選択肢は、マイノリティーの性の問題をタブー扱いするのでもセンセーショナルなネタとして消費することでもなく、問題の「変わらなさ」に実直に向き合い続けることだろう。福祉を含めた現実の「変わらなさ」と向き合うことが、現実を「変えていく」ための最低条件になるはずだ。