「図解 世界を変えた100の文書 易経からウィキリークスまで」スコット・クリスチャンソン著 松田和也訳
文字を手にした人類は、大切なことを文書に残し、記録・保存してきた。歴史とは、その文書の積み重ねと言ってもよい(時には誰かを忖度して、改ざんされたりもするが)。本書は、人類が営々と記録、保存してきた天文学的な数の文書から歴史上、重要なものを精選し、その内容や歴史的意義を解説したビジュアルブック。
巻頭を飾るのは、何千年にもわたって中国文化に影響を及ぼしてきた古代の哲学書「易経」だ。その起源は紀元前2800年ごろの神話的皇帝・伏羲にまでさかのぼるという。その現存する最古の版である紀元前300年ごろの竹簡や、宋代(960~1279年)の注釈付き本を写真で紹介する。
続いて、1901年にフランスの考古学者が現在のイランで発掘した巨大な人さし指形の石碑に刻まれた「ハンムラビ法典」(紀元前1754年)や紀元前750年ごろにギリシャのホメロスが執筆したという叙事詩「イリアス」と「オデュッセイア」など、年代順に紹介。読み進むだけで、人類の歩みが一望できる。
聖書本文の最古の写本が含まれる膨大な「死海文書」(紀元前408~紀元前318年)や、カバの樹皮の巻物に書かれた「ガンダーラ語仏教写本」(紀元50年)、預言者ムハンマドに啓示されたアラーの言葉を書き留めたイスラムの聖典「クルアーン」(609~632年)など、各世界宗教の源流ともいえる貴重な文書もある。
さらに、アメリカの「独立宣言」(1776年)や、後のイスラエル建国につながる英国外務大臣がユダヤ人科学者に出した短い書簡「バルフォア宣言」(1917年)など、歴史の転換点となった文書があるかとおもえば、万有引力の数学的説明のほか微積分法など数多くの功績を残した「アイザック・ニュートン文書」(1660年代~1727年)など科学の発展に関する貴重な記録、そして世界文学におけるもっとも偉大な叙事詩的小説と評価されるトルストイの「戦争と平和」(1869年)などの文学作品まで。選ばれた文書はさまざまなジャンルに及ぶ。
取り上げられるのは、輝かしい人類の功績だけではない。その後の破滅的な計画の予兆ともいえる、若き日のヒトラーが演説した党の方針「ヒトラーの25カ条の綱領」(1920年)や、原子爆弾製造の記録「マンハッタン計画ノート」(1942年)などの負の遺産もある。
中には、17世紀のロンドンに生きた一紳士が記した「サミュエル・ピープスの日記」(1660~69年)なるものまで取り上げられる。官職に就いていた氏は、浮世の情事から社会の大事件の詳細まで詳しく記録し、歴史上もっとも上質な目撃証言と称されているそうだ。
そして現代、文書はサイバー空間に蓄積される。「世界最初のツイート」(2006年)や、「WikiLeaks」(2007年)、「エドワード・スノーデン・ファイル」(2013年)まで。人類の5000年を文書によって一望する。
(創元社 3600円+税)