「みんなちがって、みんなダメ」中田考著
著者の中田考は、今や日本でもっとも著名なイスラム研究者で、多くの著作を刊行している。日本のイスラム研究者のたいがいはイスラム教の信仰を持っていない。ここが、ほとんどが信仰を持つキリスト教の研究者との違いだが、中田はイスラム教の信者でもある。
しかも中田は、アフガニスタンのタリバンやイスラム国との関係もあり、警察による家宅捜索も受けている。
だが、一方で中田は、「俺の妹がカリフなわけがない!」というラノべ(若者向けの漫画に近い軽い小説のこと)の原作者で、中田をモデルにした「ミニハサン」というキャラクターはマグカップやTシャツとなって販売されている。さらに、自ら称するようにツイッター中毒で、フォロワーは2万近くに及んでいる。要するに、中田ファンは少なくないのだ。
本書は、そうした中田ファンが待望する、著者初めての人生論である。表紙と帯を見れば明らかだが、「君たちはどう生きるか」を強く意識した本になっている。
本のなかで、「バカ」ということばがいったい何度使われているか数えてみたい気もするが、読み終えてみると、自分はバカなんだという気分になってくる。自分がバカだと気づく本など読んで、なんの意味があるのかということにもなるが、実はこの本には仕掛けがある。
では、バカはどう生きるべきか。本のなかで、親分に従うべきだと書かれているが、この親分はアッラー(イスラム教で神のことを言う)のことだ。それに気づくと、この本は、イスラム教の生き方を説いた人生論だと分かってくる。
イスラム教の生き方は、日本人のそれと大きく違う。なにしろ、「働かざる者、食うべからず」などという考え方はまるでないからだ。一番大きいのは、神が絶対で、人間のあいだに上下の関係が生まれないことである。一度、イスラム教の人生論にふれると、縦社会の傾向が強い日本社会の生き方が急に窮屈だと感じられてくるから、不思議である。
(ベストセラーズ 1500円+税)