著者のコラム一覧
島田裕巳

1953年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。宗教学者、作家。現在、東京女子大学非常勤講師。「葬式は、要らない」「死に方の思想」「日本の新宗教」など著書多数。

「みんなちがって、みんなダメ」中田考著

公開日: 更新日:

 著者の中田考は、今や日本でもっとも著名なイスラム研究者で、多くの著作を刊行している。日本のイスラム研究者のたいがいはイスラム教の信仰を持っていない。ここが、ほとんどが信仰を持つキリスト教の研究者との違いだが、中田はイスラム教の信者でもある。

 しかも中田は、アフガニスタンのタリバンやイスラム国との関係もあり、警察による家宅捜索も受けている。

 だが、一方で中田は、「俺の妹がカリフなわけがない!」というラノべ(若者向けの漫画に近い軽い小説のこと)の原作者で、中田をモデルにした「ミニハサン」というキャラクターはマグカップやTシャツとなって販売されている。さらに、自ら称するようにツイッター中毒で、フォロワーは2万近くに及んでいる。要するに、中田ファンは少なくないのだ。

 本書は、そうした中田ファンが待望する、著者初めての人生論である。表紙と帯を見れば明らかだが、「君たちはどう生きるか」を強く意識した本になっている。

 本のなかで、「バカ」ということばがいったい何度使われているか数えてみたい気もするが、読み終えてみると、自分はバカなんだという気分になってくる。自分がバカだと気づく本など読んで、なんの意味があるのかということにもなるが、実はこの本には仕掛けがある。

 では、バカはどう生きるべきか。本のなかで、親分に従うべきだと書かれているが、この親分はアッラー(イスラム教で神のことを言う)のことだ。それに気づくと、この本は、イスラム教の生き方を説いた人生論だと分かってくる。

 イスラム教の生き方は、日本人のそれと大きく違う。なにしろ、「働かざる者、食うべからず」などという考え方はまるでないからだ。一番大きいのは、神が絶対で、人間のあいだに上下の関係が生まれないことである。一度、イスラム教の人生論にふれると、縦社会の傾向が強い日本社会の生き方が急に窮屈だと感じられてくるから、不思議である。

(ベストセラーズ 1500円+税)

【連載】宗教で読み解く現代社会

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動