「独裁の中国現代史」楊海英著
今や経済大国となった現代の中国について書いてある本である。
面白い。
「項羽と劉邦」の物語や「三国志」が面白いように面白い。研究者による中国現代史であるが、「独裁者」について書かれており、その人物描写がバツグンに面白いのだ。
独裁者といえば何といっても、毛沢東だ。地方の名もなき豪傑が、集団に入り、頭となり、戦い、ときに逃げ、また山賊と手を結び、農民を決起させ、都市を囲んで陥落させた。やがて中国そのものを手中におさめるという、「漢の劉邦」と「明の朱元璋」しかなしえなかった「平民から皇帝になる」ストーリーは、やはり圧倒的に面白い。
ただ本書は毛沢東を褒めているわけではない。その策略家としてのすばらしい部分、戦術家としてのトリッキーなところ、そしてしっかり暴力的で、常に非情であるところ、その姿をリアルに描いている。
毛沢東は、「中国共産党の独裁」システムをつくりあげた。この広大な国を強く支配するため、かつての皇帝システムを強力にしたものである。中国は、どうころんでも「皇帝による独裁システム」を取らないと、治められるところではないようだ。
毛沢東の独裁システムは、鄧小平を経て、習近平に引き継がれている。
彼らは何があっても「民主化」などしない。中国は古来の中国システムでしか統治されない。おそらく未来永劫、中国という国があるかぎりはそうなのだろう。そういうことをしっかり読み取れる一冊である。
著者は、内モンゴルに生まれたモンゴル系中国人で、いまは日本に帰化している。だからここまで中国共産党を、冷静に、批判的に書けるのだろう。自分の体験をもとに(内モンゴルで過ごしていた少年時代に文化大革命の嵐に遭っていたらしい)、また日本では知られておらず、中国国内(本土)では公開されない資料を調べて書かれている。
三国志好きなら読んで損はない。
(文藝春秋 850円+税)