切り紙細工のような独特な画風が魅力
今やアニメは世界中で人気だが、製作技法まで宮崎アニメやディズニー優位とは限らない。特に欧州は人形アニメをはじめ多様な技法が盛ん。先週末から公開中の「ディリリとパリの時間旅行」はその最新の一作である。
舞台はベルエポック時代のパリ。仏領ニューカレドニアからきた先住民のカナック人少女ディリリがフランス人の青年オレルと達者なフランス語で親友になり、少女誘拐団の一味に立ち向かう――という筋立ては少々非現実的。これに違和感なく夢中になれるのは小4程度までだろうか。
だが、それでも大人の心をグッとつかんで放さないのが「動く絵」の魅力。
切り紙細工のような独特の画風に加え、遠景と中景を多用しながら水平方向にすっとアングルを変える映像が鮮やかだ。日本のマンガやアニメのルーツは絵巻物という俗説は、むしろこっちのフランスアニメに献上したい。大人のアニメの愉しみ方という点で、同じ仏作品「ベルヴィル・ランデブー」の次に位置付けてあげたいと思った。
先に「筋立ては非現実的」といったが、実は近年のフランス映画はこんなふうに「多文化共存」を肯定的に描こうとする傾向が明らかにある。裏を返すとそれだけ現実が差別的だ、ということでもある。
G・ノワリエル著「ショコラ 歴史から消し去られたある黒人芸人の数奇な生涯」(集英社インターナショナル 3200円+税)はディリリと同時代に実在したキューバ人奴隷出身の黒人芸人の伝記。著者はアナール学派の流れをくむ歴史学者で、フランスにおける移民の包摂と排除を巡る社会史で知られる。「ショコラ」は本名をラファエルといったが、黒い肌を珍奇に眺める客が与えた呼び名が「ショコラ」(チョコレート)だった。
歴史に消えた芸人の足跡を復活させようと願った仏知識人の努力の書である。 <生井英考>