「東京酒場漂流記」なぎら健壱著

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「悲惨な戦い」という歌をご存じだろうか。大相撲の取組中にまわしが解けて力士の大事な部分が衆人にさらされてしまうという一幕を語り口調で歌ったもので、発表当時(1973年)、かなり話題になった。それを作り歌ったのが、なぎら健壱だ。

 以後、テレビやラジオでも活躍し、ユニークなキャラクターとして知られているが、無類の飲んべえとしても名を馳せ、一時期は自分でスナックを経営していたほど。本書は、なぎらが巡った東京の酒場のルポルタージュだ。

【あらすじ】著者が好きな酒場は、食べ物に対して向上心、研究心のある店。おざなりのものを当たり前に出すのではなく、お客をうならせる、包丁人としてプライドをもって出す。そして何といっても安いこと。そうして選ばれたのが、本拠地である下町の深川、門前仲町、浅草から、生まれ故郷の銀座、70年代フォークソングの聖地、吉祥寺など全部で二十数店。

 トップを飾るのは、深川・森下の「山利喜」。まず値段表を見てびっくり。酒類がすべて小売値。これは隣の酒屋と同じ経営だからできることだが、つまみ類も格安。まだ酎ハイが一般には馴染みのない頃から、焼酎と炭酸が別々に出てきて自分好みの酎ハイが作れるようになっていた。著者のホッピー初体験もこの店。あるいは、新宿御苑の「赤ちょうちん」で苦手だった泡盛と豚足を好きになったりと、単なる名店案内とは一味違った、著者ならではのエピソードを交えて多彩な店が紹介されていく。

【読みどころ】親本が出たのは83年だから、すでにない店、移転した店、改装などで雰囲気の変わった店も多い。それでもそこここに昭和の薫りが濃密に漂っていて、歴史的な証言として貴重なものになっている。  <石>

(筑摩書房 720円+税)

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