「東京ワイン会ピープル」樹林伸著

公開日: 更新日:

 10年ほど前のこと、漫画の中であるボルドーのワインが紹介されたことによりワインの価格が高騰し、そのワインの醸造所が出荷を停止するという事件が起こった。その漫画こそ「神の雫」で、ワイン表現を独特のイメージで表現して人気を獲得し、先の事件を引き起こすほどの影響を巻き起こし、日本人のワインに対するイメージも変えた作品だ。著者はその原作者。本書でも、その華麗なワインの表現は存分に発揮されている。

【あらすじ】桜木紫野は不動産会社入社4年目、26歳彼氏ナシ。同期の千秋に誘われて生まれて初めてワイン会なるものに参加する。ところが、シャンパーニュをシャンパンと言ったことで参加者の一人にバカにされる。

 意気消沈する紫野の前に現れたのが織田一志というベンチャービジネスの若き旗手。紫野がこれまでワインに抱いていたイメージといえば渋くて酸っぱいというだけだったが、織田のすすめるDRCエシェゾーを一口含んだ瞬間、紫野のワインに対する印象が大きく変わる。

 ハーブの香る花畑の向こうから白い帽子の少女が歩いてきて、手にした籠の中から少女がイチゴを差し出す……。思わずそんなイメージを口に出したところ、織田は紫野の鋭敏な感性とイメージの豊穣さに驚く。以後、織田はワイン会に紫野を連れて行くようになるが、ある日、織田が粉飾決算の疑惑で逮捕されてしまう。そこで紫野は、織田が参加できないワイン会で飲んだワインの味を彼に伝えるべくワイン修業に励む――。

【読みどころ】登場するワインは、シャトー・マルゴー、ドン・ペリニヨン・ロゼ、シャトー・ディケムといった逸品ぞろい。実際に飲むのはかなわないが、活字の上でなら十分に堪能できる。 <石>

(文藝春秋 690円+税)

【連載】酒をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    「かなり時代錯誤な」と発言したフジ渡辺和洋アナに「どの口が!」の声 コンパニオンと職場で“ゲス不倫”の過去

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    「よしもと中堅芸人」がオンカジ書類送検で大量離脱…“一番もったいない”と関係者が嘆く芸人は?

  1. 6

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 7

    入場まで2時間待ち!大阪万博テストランを視察した地元市議が惨状訴える…協会はメディア取材認めず

  3. 8

    米国で国産米が5キロ3000円で売られているナゾ…備蓄米放出後も店頭在庫は枯渇状態なのに

  4. 9

    うつ病で参議員を3カ月で辞職…水道橋博士さんが語るノンビリ銭湯生活と政治への関心

  5. 10

    巨人本拠地3連敗の裏に「頭脳流出」…投手陣が不安視していた開幕前からの懸念が現実に