香山リカ(作家・精神科医)

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12月×日 ツイッターにログインすると、まず目に飛び込んでくるのが「いつ日本から出て行くんだ?」「バアさん、反日活動で稼いでるな」といった罵倒リプライ。勤務先の大学に行くと、広報課の職員が「また先生への苦情が入ってます」と浮かない顔で知らせに来る。

 こんな日々がもう何年も続いている。どうしてなのか。それはたぶん、私が韓国人や在日コリアンに対するヘイトスピーチ(その社会で少数派の属性を持つ人たちへの差別と排除を煽動する言動)を批判し、ヘイトデモへの抗議活動にも何度か参加したからだ。ヘイトに反対するだけで執拗に攻撃される、それがいまの日本なのである。彼らは「韓国や在日をヘイトさせろ。邪魔をするな」とせっせと私にメールしたり電話したりしてくるのだ。

 そんな人を元気づけているのが、書店に並ぶヘイト本だ。呆韓、恥韓、反日国家、ウソつき国、よくもこんなにひどいタイトルを、と目を伏せるような本がベストセラーの棚に並ぶ。出版社や書店は何を考えているんだ。

 その謎に迫ったのが、永江朗氏の「私は本屋が好きでした」(太郎次郎エディタス 1600円+税)だ。永江氏は1冊の本が作られ売られるまでにかかわるさまざまな職種の人たちにインタビューを試みるが、返ってくるのは「売れるから作り、並べる」といった悲しい言葉ばかりだ。本にいちばん近いところにいる編集者ですら、「(ヘイト本は)出せば売れる」「仕事だからやっている」と他人事のようなのだ。

 永江氏は、このままだと本屋の魅力はさらに減りついには滅ぶ、と悲観的だ。書店員に「他人まかせにせず、売る本を選ぼう」と呼びかけるが、どれだけの人がこの声にこたえるか。

 ため息をつきながら、ジャレット・コベックというまったくの新人の「くたばれインターネット」(浅倉卓弥訳 Pヴァイン 2600円+税)を開く。ネット炎上に巻き込まれたアラフォー女性が、ネットへの呪詛を吐きながら反撃をくわだてるという痛快すぎる物語だ。私もめげずに元気出してがんばろう!

【連載】週間読書日記

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