「『食べる』が変わる『食べる』を変える」ビー・ウィルソン著、堤理華訳
住宅や医療など、生活環境は過去よりも向上している。しかし、食に関してはだんだん悪くなってきているのではないかと、フードジャーナリストの著者は言う。食料供給システムが整い、多くの人が簡単に食べ物を得られるようにはなっているが、裏を返せばその誘惑から逃れにくくなっているということ。食べ物は健康に貢献する一方、過剰摂取によるリスクは喫煙や飲酒よりも高いと言っても過言ではない。
食由来の健康問題が猛威を振るい始めた期間に、世界でもっとも増加した食品は何だろうか。現代の消費者の多くは糖の取り過ぎに敏感になっているが、この50年で供給量が著しく増大しているのは、実は精製植物油だ。とくに、ヒマワリ油は275%、大豆油は320%も増加しているというから恐ろしい。
自分は揚げ物などの脂っこいものは控えているので大丈夫と思うかもしれないが、精製植物油は風味や食感をつけるためにさまざまな食品に用いられている。クラッカーやビスケット、スナック菓子はもちろん、アイスクリームや一見ヘルシーなシリアルにまでひっそりと入り込み、消費者に意識させないまま過剰な摂取をもたらしている。
食に健康を脅かされないためにはどうしたらよいのか。大切なことは、自分が何を食べているのかを知ることだと著者は言う。口に運ぼうとしているものは単なる“スナック菓子”ではなく、どんな原材料からできているのかを意識する習慣をつけるのだ。他にも、流行の食べ物には手を出さない、水以外の“水のようなもの”は飲まないなど、食習慣を変えるためのヒントを提示する本書。食べるという行為を、もう一度見直してみたい。
(原書房 2800円+税)