明日はどっちだ⁉ 未来予測を読む本特集

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「人新世の『資本論』」斎藤幸平著

 先の見えない時代だが、未来を予測することは可能だろうか? 寿命は延びるのか、家族の形は変わるのか、環境破壊は止まるのか……。そんな疑問に対する答えを探るために、こんな本を読んでみよう。



「人新世」とは、「人類が地球を破壊しつくす時代」のことである。豊かな生活を約束するはずだった近代化による経済成長が、人類の繁栄の基盤を切り崩している。資本主義が気候危機の原因のカギを握っているのだ。

 気候危機に立ち向かうには、二酸化炭素排出量の7割を占める都市の生活を変える必要がある。国家が押しつける新自由主義的な政策に抵抗する地方自治体を「フィアレス・シティ」と呼ぶ。そのネットワークにアムステルダムやパリなどの政党や市民団体が参加し、二酸化炭素排出量削減のために、電力や食の地産地消、飛行機の近距離路線の廃止などの改革を行っている。そこには晩期マルクスの脱成長社会のエッセンスである、「価値」から「使用価値」への転換を見いだせるという。

 切迫する「気候危機」を阻止するために、「脱成長経済」を提唱。

(集英社 1020円+税)

「メガ・リスク時代の『日本再生』戦略」飯田哲也、金子勝著

 2011年の福島原発事故やシェールガスの生産量の拡大により、アメリカは天然ガス利用の火力発電にシフトした。

 ところがそういう動きを無視して、日本政府は海外に原発を輸出しようとして失敗する。既に再生可能エネルギーが主力になっているのに、日本政府はいまだに原発重視の「ガラパゴス状態」なのだ。まだ産業も自動車産業などの製造業が中心で、情報通信産業では取り残されている。エネルギーシステムを「集中メインフレーム型」から「地域分散ネットワーク型」に転換することが必要である。

 まず、巨大電力会社が地域独占している現在の体制を解体しなくてはならない。発送電を分離し、中小の電力事業者が再生可能エネルギーによる発電でエネルギーシステムを実現すれば、産業や社会のあり方が大きく変わる。10年後の日本のトータル・ビジョンを提示する書。

(筑摩書房 1500円+税)

「2020―2030 アメリカ大分断 危機の地政学」ジョージ・フリードマン著 濱野大道訳

 アメリカの歴史には2つの大きな周期が存在する。ひとつは約80年ごとの「制度的サイクル」で、1780年代後半のアメリカ独立戦争の終結と憲法改正、2度目は第2次世界大戦の終結である。もうひとつは約50年ごとの「社会経済的サイクル」で、1960年代後半に始まった経済的・社会的な機能不全が、システムの抜本的変化につながった。

 2016年のドナルド・トランプの大統領選の勝利は、第4の「制度的サイクル」と第6の「社会経済的サイクル」への移行の始まりを示している。このサイクルでは、出生率の低下と平均余命の延長が核となる。

 既に第5サイクルで結婚、出産、男女の社会的認識が崩れ始めたが、生活様式の崩壊が進み、人間同士のつながりがもろくなるという。

「100年予測」の著者がアメリカの今後を予測。

(早川書房 2000円+税)

「予測学 未来はどこまで読めるのか」大平徹著

 藤井聡太二冠の活躍で将棋が注目されているが、将棋の世界で予測は可能だろうか。将棋プログラムの開発が進み、2017年に佐藤天彦名人がコンピューター将棋ソフト「ポナンザ」に2連敗した。

 では、人間自身の予測や評価はコンピューターのアルゴリズムと同じように行われるのだろうか。人間は自分と相手の打つ手を予測しながら指していくが、棋力があるレベルに達すると、まず次の一手が浮かび、この手でまずいところはどこかと、逆にたどっていくようになる。これを「第一感」と呼ぶが、この「第一感」を人工知能に組み込む研究もされている。

 現代社会では合理性、論理性が重視される。選択の過程より、選択の結果が事前の予測と合っているかが重要だが、予測も難しいので、我々は「結果オーライ」を継ぎはぎしながら何とかやっているのだ。

 数理学者が予測学の基礎知識を説いた本。

(新潮社 1200円+税)

「LIFESPAN 老いなき世界」デビッド・A・シンクレアほか著 梶山あゆみ訳

 年をとっても健康で楽しく生きられる時代は遠くなさそうだ。現在、老化を防ぐために、「老化細胞」除去の研究が進められている。「老化細胞」とは増殖するのを永久にやめてしまった細胞で、老化の典型的特徴のひとつが「老化細胞の蓄積」である。老化細胞は小さなタンパク質、サイトカインを放出し続けて炎症を起こし、免疫細胞のマクロファージを引き寄せて組織を攻撃させ、広範囲にダメージを与える。炎症は心臓病、認知症などの引き金にもなる。

 この老化細胞の除去薬として期待されているのが「セノリティクス」だ。この薬は老化細胞内で細胞死のプログラムを誘導し、老化細胞だけを死滅させる。それ以外に、ゲノム全域を移動できるDNA配列「レトロトランスポゾン」を封じ込める方法や、免疫系を活用するワクチンでがん細胞を攻撃するなど、老化を防ぐ最先端科学とテクノロジーを紹介する。

(東洋経済新報社 2400円+税)

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