あなたの悩みにきっと効くお悩み相談本特集
「自分の薬をつくる」坂口恭平著
思いがけないことが次々と起こる今の時代、「一体どうしたらいいのか……」と悩みの沼に落ちて途方に暮れている人も少なくないはず。そこで今回は、自己解決の指南書から、がんになった写真家が答える人生相談まで、あなたの悩みにきっと効く5冊をご紹介。
◇
携帯電話の番号を公開して「いのっちの電話」なる駆け込み電話相談を始めた著者による、悩みの自己解決指南書。自身がそううつ病で苦しんだ経歴から編み出した、心身に良い変化をもたらす「自分の薬」の作り方を、患者役の参加者を前に架空のワークショップ形式で指南していく。
たとえばネガティブになりがちと訴える女性に対しては、歌好きなことを聞き出し、自作の持ち歌をレコード化する企画書を書くことを提案。自己否定を避けるために作品をつくる方法で切り抜けよという処方箋を出している。
著者は医師役に、参加者は患者役になり、患者からの相談に処方箋として薬=日課を提示する演劇方式で進む本書は、読者も疑似体験が可能。処方箋は試したくなるようなものばかりで、行き詰まった気持ちも軽くなりそう。
(晶文社 1500円+税)
「人生のやめどき」樋口恵子、上野千鶴子著
年を重ねれば重ねるほど、厄介な問題は山積しがちだが、「やめること」で人生の荷物をおろそうと試みる著者2人の対談本。家族のやめどき、人間関係のやめどき、社会のやめどき、自立のやめどき、人生のやめどきの5章構成で、肩の荷を上手におろす方法を語り合っている。
「社会のやめどき」の章では、趣味のやめどきについて考察。観劇などの趣味の継続はトイレの近さと関係があり、1時間の座位が保てなくなると諦めざるを得なくなるという。観劇後の帰宅渋滞で体力を奪われぬよう、指揮者の手が止まる寸前に席を立つことや、優秀な尿漏れパッドを活用することなど、やめるまでの策も併せて紹介。
高齢化によって物事が難しくなったときの見切りのつけ方を、理想論ではなく現実的に語る姿勢がすがすがしい。
(マガジンハウス 1400円+税)
「33の悩みと答えの深い森。」奥野武範/構成・文
昨年5月に渋谷で開かれるはずだった「はたらきたい展。2」。
新型コロナの影響で中止となったことがきっかけで、展示されるはずの内容が一冊の本になった。
掲載されているのは、ほぼ日刊イトイ新聞の読者から寄せられた「働くこと」に関する悩みと、それに対する33人の著名人の問答だ。才能がないと悩む人に向けて本木雅弘が自身の才能観を語り、30歳すぎたら伸びしろはないのかと問う人に為末大が年齢と伸びしろの関係を解説するなど、お悩みと回答者の組み合わせの妙も読みどころ。
秀逸なのが、これからの時代に働く上で大切な感覚は何かという質問に対する「どれだけ仲間をつくれるか、だと思います」という小泉今日子の回答。アイドル時代から仲間とユニットを組む感覚があったという人ならではの回答が光る。
(青幻舎 2000円+税)
「人生に悩んだから『聖書』に相談してみた」MARO著
プロテスタント教会公式ツイッターの運営者である著者が、人々が抱えるさまざまな悩みに対して、聖書ならどう回答するかを楽しく解説しているのがこの本。ひとりのクリスチャンの解釈ですと断りを入れつつ、どんな悩みも人が幸せへと進む道になるとして聖書の活用を勧めている。
たとえば、倍返しを望む半沢直樹的な復讐心を持つ人には、旧約聖書の「出エジプト記」の一節「目には目を、歯には歯を」を引用し、これは復讐行為がエスカレートしないために「目をつぶされたら目をつぶすだけにしましょう」と抑制した言葉だと解説。新約聖書では「あなたの右の頬を打つ者には左の頬も向けなさい」と復讐自体を否定しており、復讐を繰り返せば膨れ上がり、誰も幸せにならないので、倍返しはやめてねと優しく説いている。
(KADOKAWA 1400円+税)
「他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。」幡野広志著
がんを発病して以来、多くの相談事が寄せられるようになった写真家による人生相談本。
障害のある子を義務感だけで育てているが、どうしたら子どもを愛して受け入れられるかと問う相談者に対して、著者はあなたが悩んでいるのは障害とは別のものではないかと切り込む。子どもに対する正直な気持ちを周囲に吐露できなくなって自己嫌悪に陥っているのではないか、健常児との比較や周囲から求められる母親像に苦しめられていることを理解することが第一歩ではないかと伝えつつ、どうやったら愛せるのかと質問すること自体が愛し始めている証拠ではないかと回答。
自分の悩みは結局、自分にしか理解できないけれど、そのことを理解した上で思いやることはできると言い切る著者の言葉は、ストレートに胸に響く。
(幻冬舎 1500円+税)