ユニークな切り口の異色本特集

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「比例区は『悪魔』と書くのだ、人間ども」藤崎翔著

 一風変わった切り口で知の世界を広げてくれる異色本をご紹介。新型コロナ禍でままならなくなった「共食」が人類にもたらした功績や、倫理に反する視点で鑑賞する西洋美術、アナキズムの視点で読み解く社会問題など、角度を変えて見ることで視野が広がることを教えてくれる5冊を取り上げる。



 横溝正史ミステリ大賞を受賞した経歴を持つ、元お笑い芸人の著者による短編&ショートショート。

「私の担当する池に、斧が落ちてきた」で始まるのが、「日本今ばなし 金の斧 銀の斧」。

 昨今、木こりたちは斧ではなくチェーンソーを使っているし、林業の衰退で森林の手入れも遅れている。

 そんな中で久しぶりに落ちてきた斧。神様は張り切って姿を現し、「おまえが落としたのは金の斧か?」と決めぜりふを言う。ところが高齢化が進む現代、斧を落とした男はヨボヨボの老人で、自分が落とした斧がどんなものだったか覚えていないようなのだ。そこで神様はあらゆる情報が分かる「神手帳」を検索し、老人に認知症テストを始めるのだった。

 悪魔メークでまっとうな政権公約を叫ぶ「悪魔党」が日本の政治をぶった切る表題作ほか全12編を掲載。思わず噴き出す仕掛けの数々に、さすが笑いのプロとうならせられる。

(光文社 1550円+税)

「道を見つける力」M・R・オコナー著 梅田智世訳

 カーナビや地図アプリにより、現代人は道に迷わなくなった。しかし、これらの便利な道具が登場したのは人類の歴史の中でも最近のこと。それまで私たちは、体の感覚と脳を駆使して、現在地と行くべき場所を結ぶ道を見つけてきた。

 本書では、脳科学や人類学などさまざまな視点から、生き物のナビゲーション能力について分析している。

 ヒトのGPSと呼ばれるのが、脳の海馬という領域で、場所細胞や頭方位細胞などが「認知地図」をつくり出しているという。GPSが認識するのは変化することのない座標だが、海馬は記憶の構築にも携わり、経験や目標、欲求などを基に地図を構築していると考えられている。つまり、人それぞれの個性に応じたインフラを提供しているということ。GPSよりもはるかに柔軟で優秀なナビ機能といえる。

 長距離を旅する動物たちや、伝統的な航海術を守り続ける人々の生活もルポしている。

(インターシフト 2700円+税)

「背徳の西洋美術史」池上英洋、青野尚子著

 色彩の鮮やかさや線描の巧みさが人々を魅了する西洋美術。一方で、作品に描かれた背景にあるストーリーを知ると、その楽しみ方は一層深いものとなる。本書では、西洋美術の主要なテーマである「背徳美術」の視点で、鑑賞ポイントを紹介している。

 西洋美術に欠かせない神々の絵。全知全能の神として知られるゼウスが描かれた作品は多いが、実はこの最強の神、性には驚くほどだらしない。そして女性に迫る際に発揮されていた力が、変身能力である。

 特にゼウスがご執心だったのが、スパルタ王の妻レダで、白鳥に変身したゼウスがレダを陵辱する作品は、ミケランジェロも描いている。無防備な裸体のレダに迫る白鳥の尾羽は陰部を覆い、長い首は乳房にしなだれかかる。獣姦の生々しさがあるものの高い人気を誇り、多くの画家が描いてきた。

 ほかにも、不倫、売春、少年愛などテーマ別に紹介。背徳美術の魅力に取り憑かれそうだ。

(エムディエヌコーポレーション 1800円+税)

「『共食』の社会史」原田信男著

 人間の社会生活の変容について、共食という視点で分析する本書。

 人類の共食の始まりは、約180万年前ごろから火を使うようになったことに関係するという。火は光源になり、同時に熱源にもなる。集団で火を囲んで調理し、焼ければその場ですぐに食べられることから、必然的に宴が生まれ、人類には共に生きる集団としての仲間意識が育まれたと考えられる。

 大自然の中ではか弱い存在であった人類は、さまざまな事象をつかさどる存在としての神を想定してきた。ここでも共食儀礼が重要な役割を果たした。すなわち神人共食だ。神に捧げ神が食べた神饌を、下し物として分配し人々が共食することで感謝の気持ちを共有する。正月に供えた鏡餅を割り、皆で食べる風習もこれに当たる。

 集団として生きる戦略を選択した人類にとって、共食は欠かせない食事行動であると本書。コロナ禍で共食がままならない今、改めてその意義を考えてみたい。

(藤原書店 3600円+税)

「アナキスト本をよむ」栗原康著

 政治学者でありアナキズム研究を専門とする著者による型破りな47本の書評。

 ブレイディみかこ著「THIS IS JAPAN―英国保育士が見た日本」は、労働組合のストライキや反貧困集会などの取材ルポ。ある時ブレイディ氏は、キャバクラユニオンのストライキ支援に参加する。しかしその現場で、同じように悪条件で働かされているはずの客引きの女性たちが、ストライキ参加者に食ってかかる現場を目撃する。海外なら、貧乏人は貧乏人の味方をするのに、なぜ日本では貧乏人同士が争うのか。

 著者は、国家が徴税のために国民を数字としてしか見なしていないことが問題だと語る。税金は払うのが当たり前。それができなきゃ泥棒だ。だからストライキなんかやっている暇があるなら働くべしと刷り込まれている。そしてブレイディ氏の言葉を借り、日本人はもっと貧乏に開き直るべしと説いている。

 アナキズムの精神で本を読むことの面白さが分かる。

(新評論 2200円+税)

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