「ディズニーと動物」清水知子氏

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 ピノキオ、ダンボ、ピーター・パン、不思議の国のアリス、101匹わんちゃん……。子供の頃わくわくして見た映画、我が子が目を輝かしたアニメ。誰にも身近なディズニーの世界だが、その成り立ちやメッセージ性を知る人は少ないのではないか。

「筑波大学で教えていますが、『ディズニーのキャラクターをアイコンとしてよく知っているけど、映画は見たことがない』という学生が多かったんです。それほどキャラクターが人気なのは、ディズニーが私たちの日常に計り知れない力を及ぼしてきたメディアだからですよね。長く人気を維持できているのはなぜか。物語に多く登場する動物を軸に、文化論の視点からディズニーの世界を論じる講義を行ってきました」

 その講義をもとに執筆したのが本書だ。

 ミッキーマウスが誕生したのは、アメリカで大半の産業が活気に沸いていた1928年。ところが、ミッキーは小さなネズミで、丸い耳は1セント硬貨のように、小さな経済単位を表したといわれる。名前は小さな者、弱い者の代名詞となり、「ミッキーマウス・オペレーション」と言えば、資本不足の会社経営か、軽い外科手術を意味したそうだ。

「当初の造形は、やんちゃなネズミなんですね。ガールフレンドのミニーの口は小さく、スカートが揺れます。ミニーを徹底的に女の子らしく描き、対比させた。でも、単に子供向けのエンターテインメントとして誕生したのではなかったんです。そもそも動物であることが社会からの疎外感を表していて、それに疎外感を覚える人たちが共感した。ミッキーには権力体制への反発が込められていたんです」

 肌が黒く描かれるのは、黒人のメタファー(隠喩)とも捉えられる。じっさいミッキーマウスは、映画史上初めて黒人を肯定的に描いたキャラクターともいわれている。

 本書はモダニズム芸術やテクノロジー、自然との関係性などの側面などからも新旧のディズニー映画の歴史をたどるが、中でも注目なのが、戦争とプロパガンダとの関わりを追う章だろう。

「1930年代、ヨーロッパへ盛んに輸出され、特にドイツはディズニーブームとなりました。実はヒトラーもディズニー好きだったので、第2次大戦が近づいても、『敵国を知るために必要だ』と言って首相官邸試写室で見ていたんですって。しかも、かつて画家を目指そうとしたこともあった彼は、白雪姫の小人やピノキオなどを水彩画で模写しています。最近では、2008年にもそうしたヒトラーの絵が発見され話題になりました」

 一方、アメリカではハリウッドのディズニースタジオが真珠湾攻撃の日に軍に占拠され、反ナチスを強く押し出したプロパガンダ映画が製作される。ドナルドが主役のものだけでも36本。

 そのうちの1本「総統の顔」はこう。〈ドナルドがある朝目覚め、弾丸工場の労働者になる。弾丸に交じってヒトラーの肖像画が流れてきて、てんやわんや。しかし、もう一度目覚めると、星条旗のパジャマを着ている。壁に映る挙手の影に「ハイル・ヒトラー」と返すも、実はそれは自由の女神の影だった――〉

 変化球を投げつつアメリカを称賛するつくりだ。

「ディズニー映画のどの物語にも、深い社会的メッセージが付加されています。しばらくディズニーから離れていた方も、メッセージを探りながら、ぜひディズニー映画を見てほしいですね」

 他にも、「バンビ」「ダンボ」「くまのプーさん」「美女と野獣」「リトル・マーメイド」などお馴染みの映画についての興味深い話が詰まっている。

(筑摩書房 1870円)

▽しみず・ともこ 愛知県生まれ。筑波大学人文社会系准教授。専門は文化理論、メディア文化論。著書に「文化と暴力――揺曳するユニオンジャック」、共訳書にジュディス・バトラー著「アセンブリ――行為遂行性・複数性・政治」など。

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