奥野修司(作家)

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2月×日 ある方から「開戦の詔書」の原本をいただいた。これがきっかけで、「昭和天皇『日米開戦』7つの謎」(「文藝春秋」2022年1月号)を書いたのだが開戦に決意していく昭和天皇の意思を推理していくのは実に楽しかった。

 昭和史というのは謎がいっぱいあって、病みつきになる気持はよく分かったが、その勢いで読んだのが田島道治著「昭和天皇拝謁記1」(岩波書店 3300円)だった。これがすこぶる面白い。昭和天皇というのは寡黙な方だと思っていたが非常に饒舌で、コントロールできない陸軍に「下剋上の風潮」ありと形容しているところなど、2.26事件のトラウマを感じさせる。また、大元帥から象徴天皇になった昭和天皇が、敗戦後の日本をどう見ていたかも読み取れて非常に興味深かった。昭和史一級の史料だろう。

2月×日 20数年前に終末期のがん患者をインタビューしたのをきっかけに、がんの取材を続けてきたが、がん化の原因を調べていくとどうしても食べ物に行きつく。私たちの食べ物が工業化されていくにつれて、体ががんという病で反旗を翻しているのではないか。人間は自然と関係を築くように進化してきたが、人工物には拒絶反応を示すのだろう。

 そんなことを思っていたときに手にしたのがスー・スチュアート・スミス著「庭仕事の真髄」(築地書館 3520円)。コロナ禍で若い人たちが地方に移住しているのも、本書を読むと納得できる。自然を失った都会生活への無意識の抵抗なのだ。大戦中、ヨーロッパの激戦地で敵味方の兵士が掘った塹壕には小さな花畑があったという。神経症や心的障害で苦しむ人は庭仕事をすると回復が早くなるのも、土の匂いに安心するのだろう。人間も自然界の生物であることを忘れるなと、警告されているような気がした。

【連載】週間読書日記

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