「女副署長」 松嶋智左著

公開日: 更新日:

 全警察官に占める女性警官の割合はようやく1割を超えたが、管理職、それも署長や副署長などを担う警視はおよそ3%。近年ではさらに上位の女性警視正も誕生しているが、まだまだごく少数。本書は、その3%というごく少数の女性管理職を主人公とした警察小説だ。

【あらすじ】田添杏美警視は警察官に奉職して33年の55歳。県内初の女性副署長に抜擢され、県郊外にある日見坂署へ赴任してきた。

 赴任から数カ月経った8月、日見坂署方面に大型の台風が接近しつつあった。夜半近く、台風被害対策本部が開設され、署内は警戒態勢に入る。杏美も各部署との連絡を取っていたが、そこへ署の駐車場で男の遺体が見つかったとの報告が入る。

 被害者は、地域課第二係の鈴木係長。折からの豪雨で現場の遺留品はすべて消失、手がかりは胸に刺さったナイフのみ。しかも防犯カメラで確認すると外部からの侵入者は皆無で、犯人は署内にいる可能性が高い。つまり日見坂署の警官全員が容疑者ということになる。

 刑事課のベテラン花野は、杏美、署長も含めて全員を署内にとどめ事情聴取に当たるという。副署長の自分を無視した花野の横暴に憤るが、刑事事件の経験のない杏美は傍観するしかない。調べを進めていくと、被害者の鈴木係長は仲間に金を貸し、利子を取っていたことが判明。動機は金にまつわるトラブルか。そこへ留置中の女性が逃走するという事件も発生。荒れ狂う台風の中、日見坂署は大きな濁流にのみ込まれていく……。

【読みどころ】著者は元警察官で、日本初の女性白バイ隊員という経歴の持ち主。署の建物の細部や微妙な人間関係などが細密に描かれ、全員容疑者という異常な設定もリアルに感じられるのは、さすが。 <石>

(新潮社 737円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    悠仁さま「進学に向けた勉学の大切な時期」でも続く秋篠宮家と宮内庁の軋轢

  2. 2

    初V京都国際の《正体》と《左腕王国の秘密》…野球部“以外”の男子生徒わずか12人

  3. 3

    山陰まで及ぶ大阪桐蔭・西谷監督のスカウト活動範囲…《最新車で乗り付けてきた》の声も

  4. 4

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  5. 5

    目黒蓮をCMに再起用したコーセーにSnow Manファン大暴走 佐久間大介も別問題でファンに苦言

  1. 6

    「Snow Man=めめ以外は演技下手」定着のリスク…旧ジャニのマルチ売りに見えてきた限界

  2. 7

    もはや任意じゃなくて強制…12月2日のマイナ保険証一本化に向けて強まる国民への包囲網

  3. 8

    離職後、定年後は何をしたい? 第2位「まだ考えていない」…では第1位は?

  4. 9

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  5. 10

    "キムタク神話崩壊"へ秒読み…通算3作目ソロアルバムが1stから56%ダウンの惨憺