「脇坂副署長の長い一日」真保裕一著

公開日: 更新日:

 所轄警察の副署長というと、「踊る大捜査線」シリーズの「スリーアミーゴス」の1人、秋山副署長のように、常に署長や本庁の捜査官の顔色をうかがう典型的な中間管理職といったイメージが思い浮かぶが、本書の主人公、脇坂副署長は自ら現場に出張っていって捜査に当たるという“現場志向”の辣腕副署長だ。

【あらすじ】脇坂誠司は某県所轄の賀江出署の副署長。かつては県警本部で管理官を務め、いくつもの現場を仕切ってきたが、5年前、部下の失態の責任を負わされて警察学校の教官に飛ばされた。2年後、県警本部の警務部に戻されたが、県警の有力派閥の長、赤城によって副署長に任命されたのだ。ところが、新任署長の菊島は赤城のライバルで、脇坂は知らず知らずのうちに派閥争いの渦中に巻き込まれることに。

 そこへ舞い込んできたのが地元出身の人気アイドルの一日署長のイベント。脇坂は副署長としてこのイベントをつつがなく執り行うのが役目。しかし、当日の深夜、娘から母と弟が行方不明だと電話がかかってくる。続いて早朝にはスクーターが道路に横転しているとの通報を受けるが、スクーターを運転していたのは地域課の若い巡査部長で行方不明だという。

 なんとか手配を整え、いざイベントと思いきや今度は当のアイドルの薬物疑惑が持ち上がる。アイドルは疑惑を否定するとともに、一日署長を引き受けたのはある目的があったからだと告白する。いくつもの事件が折り重なり、加えて派閥争いも絡んできて、脇坂は長い一日を過ごすことになる。

【読みどころ】一見無関係な複数の事件が同時多発的に起こり、それが過去の事件と一本の線で結ばれ、すべてが24時間内に解決される──。著者ならではの名人芸が冴える警察小説。 <石>
(集英社 869円)

【連載】文庫で読む 警察小説

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ

    大谷翔平を激怒させたフジテレビと日本テレビ…もっと問題なのは、情けない関係修復の仕方だ

  2. 2
    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

    悠仁さま「東大合格」の逆風になりかねない宮内庁“3年前の痛恨ミス”…トンボ論文の信頼性に影響も

  3. 3
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 4
    「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

    「今市事件」服役中の勝又拓哉受刑者「『有希ちゃんを殺してごめんなさい』って50回言わされた」

  5. 5
    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

    ロッテ佐々木朗希 日本では「虚弱体質」の烙印も…米球団むしろプラス評価でゾッコンの理由

  1. 6
    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

    なぜ大谷はオールスターで「最多得票」を取れないのか…圧倒的成績を残しながら首位と26万票の大差

  2. 7
    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  3. 8
    杉咲花&若葉竜也「親密報道」後も評価上昇 「アンメット」の演技にはゴシップを超える力がある

    杉咲花&若葉竜也「親密報道」後も評価上昇 「アンメット」の演技にはゴシップを超える力がある

  4. 9
    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

    ドトールに注がれる「石丸効果」都知事選でヒモ付き隠さず3番手から猛追、株価も爆上がり

  5. 10
    まるで大使館…剛力彩芽&前澤社長の“100億円豪邸”を発見

    まるで大使館…剛力彩芽&前澤社長の“100億円豪邸”を発見