「牧野富太郎 草木を愛した博士のドラマ」光川康雄著
「牧野富太郎 草木を愛した博士のドラマ」光川康雄著
人生のすべてをかけて植物研究に励んだ博士。その努力と熱意もさることながら、それが可能だったのは博士の夢の実現を経済的に支えたり、温かく見守る人々の存在があってこそ。本書は、博士をとりまく人物たちにも焦点を当てた人物伝。
小学校中退の学歴しかない博士だが、寺子屋や地元領主が開いた郷校でレベルの高い教育を受けていた。そもそも故郷の佐川に、学問を尊ぶ風土が根付いていたからこそ、博士はその才能を伸ばすことができたともいえる。
佐川は、博士以外にも宮内大臣を務めた田中光顕や中央大学創立者の土方寧、土木学者の広井勇ら多彩な人物を輩出。田中や土方は、博士を窮乏から救った恩人でもある。
ほかにも、出入りを許してくれた東大の植物学教室の教員・矢田部良吉や、「まるで放蕩(ほうとう)息子を1人抱えているようだ」と冗談を言いつつも、渋谷で「待合」を経営して家計を助けた妻の壽衛や、壽衛亡き後の研究と生活を支えた次女の鶴代など、博士とその挑戦を陰に陽に支えた家族と先輩、友人らとのドラマを紹介。
(日本能率協会マネジメントセンター 1705円)