「step2」江口寿史著
「step2」江口寿史著
1977年の漫画家デビュー以降、数々のヒット作を生み出し、一世を風靡した著者は、1980年代からはイラストレーターとしても活躍。本書は、そのイラスト作品を編んだ画集だ。
画集として異例のベストセラーを記録した前作に続く第2弾で、2020年から今年前半期の作品まで150点以上の作品を収録する。
表紙にも採用されている作品は、今年3月に行われた個展「東京彼女」のキービジュアル。「彼女と街と時間」の新しい展示を意識したという展覧会のポスターや会場ホールのバナーなどに採用された作品だ。
ロングヘアに、半袖ジャストサイズめの赤黒ボーダーシャツ、そしてジーンズに2つ穴の白いベルトといった彼女のファッションは、著者いわく「全部が今では絶滅アイテム」。なのだけど「今の自分にはこれがシックリきた。ここ10年くらい続いたオーバーサイズ時代にも少々飽きた。もう何か、『トレンド』とか『次はコレが来る』とかいう類いの情報は死滅するんじゃないですかね、完全に。今までのように『ガラリと』ではなく、ジワジワときている時代の変化がこの絵にも現れていると思う」と著者自身による作品解説に記す。
ワイン雑誌の表紙を飾るために描かれた作品のシリーズもある。
21年間も同誌の表紙を担当している著者だが、作品の完成はいつも締め切りギリギリの綱渡りだという。
それでも「印刷所の交渉はこっちで頑張るから絶対手抜きしないで。いいものあげて!」という編集長の言葉に鼓舞され、作品を描いてきたと打ち明ける。
作品は季節ごとに、浴衣を着たり、ニットのワンピース姿の女性たちがワインボトルを手にしている姿を描いているのだが、その中の一枚はオーバーサイズ(まだこのころは健在)のペパーミントグリーンとホワイトのボーダーシャツを着たショートカットの女性が、大きくあいた襟ぐりから片方の肩を出し、胸にワインボトルを抱えている。
その「あざと可愛さ」とアーモンドの形をした大きな瞳が、何かを語っているようで、彼女との間に何かが始まりそうな予感さえ抱いてしまう。
雑誌「東京人」の表紙用に描かれた、街中の歩道橋を上っている途中で振り向いた大ぶりのヘッドホンをした女の子などは、聴いている音楽やその視線の先にあるものを知りたくなってくる。
そのように一枚一枚のイラストから、ストーリーが立ち上がってくる。
ほかにも、雑誌の挿絵用に描かれた芸能人やスポーツ選手の似顔絵イラストなども多数収録、その多彩な仕事ぶりがうかがえるファン必携の一冊。
(河出書房新社 2365円)