「超・色鉛筆アートの世界」マール社編集部編
「超・色鉛筆アートの世界」マール社編集部編
今、SNSで話題のアートのひとつが色鉛筆画だろう。色鉛筆を用いて瞬く間にリアルな作品を仕上げる動画に多くの人が感嘆するのは、製作者の画力とともに、誰もが手にしたことがある色鉛筆という馴染みのある画材の底知れぬ可能性に気づかされるからだ。
本書は、色鉛筆を神ワザのように使いこなす色鉛筆画家12人の作品を紹介する画集。
表紙を見ただけで分かるように、一見しただけではこれが色鉛筆だけを用いて描かれた「絵」とは思えず、何度も見てしまう。
これを描いたのは、音海はるさん。ほかにも猫が好奇心いっぱいの目でこちらを見つめる「眼差し」とタイトルされた一作など、主に動物をモチーフにした音海さんの作品は、外の世界を反射する猫の瞳の透明なふくらみや、動物特有のしっとりとしめった犬の鼻など、どれも写真と見間違えるほどのリアルさだ。
各作品の製作時間は20~30時間ほどだというから驚く。
虎を描いた作品では、背景が一眼レフで撮影した写真のようにぼかされ、主役を引き立てる。こうすることで遠近感が出て、作品の中に「空気感」を閉じ込めることができるそうだ。
さらに細かい毛並みを表現するために鉄筆を用いてあらかじめ用紙をへこませ、細い溝を作るなど、作品を描く上でのテクニックやこだわりなども公開。
同じリアルでも、ぼんぼんさんの作品は、音海さんの作品のそれとは異なり、デミたまハンバーグやたこ焼き、ワイルドステーキなど、身近な料理を迫力満点に描く。ハンバーグの焦げや、上にのった目玉焼きの照り、ソースの「汁感」など、見る者の食欲までそそる。
ぼんぼんさんが色鉛筆画を始めたのは6年前。仕事を辞め、1カ月ほど石垣島を旅した折、写真で記録するだけでは飽き足らず、匂いや温度、空気感など、その時に感じた「気持ち自体」を残せないかと、たまたま持参していた誕生日プレゼントの色鉛筆でスケッチを描き始めたのが色鉛筆画との出合いだったという。
美術史家の村田隆志氏は、本書への寄稿で「掲載されているのは色鉛筆アートの完成形なのではなく、現時点での到達点」だと言う。
リアリズムを追求した絵画が、カメラという技術の登場を機に個性の追求へと向かったように、リアリズムの追求の段階にある色鉛筆アートは今後、強い個性を発揮する方へと向かうだろうと予測する。
太陽の光と空気感を感じさせる林亮太氏の「広島憧憬 盛夏の尾道階段路地」や、オーロラを描いた弥永和千氏の「光のカーテン」、深紅のバラを描いた村松薫氏の「Summer」などの作品は、確かにリアルさから一歩抜け出て、新たな境地に向かっている。
誰もが手軽に始められる色鉛筆アートだが、その進化はとどまるところを知らないようだ。
(マール社 2640円)