「辺境異境の世界遺産」野町和嘉著
「辺境異境の世界遺産」野町和嘉著
世界各地で極限の自然の中を生き抜く人々の暮らしを写真に収めてきた著者は、これまで数多くの世界遺産も撮影してきた。「抗いがたい磁力に引き寄せられるようにして撮影した遺跡が、すでに世界遺産に登録されていたことをのちに知り、遺跡が発していたオーラの何たるかを納得したこと」もあったという。
一方で、サハラ砂漠の最奥部、まだ砂漠が緑に覆われていた8000年前から数々の民族によって描き続けられてきた先史時代の岩絵が残る「タッシリ・ナジェール」(アルジェリア)には、1982年の世界遺産登録よりもはるか前に、ラクダ5頭からなるキャラバンを組んで無人地帯を1カ月近く野宿しながらたどりつき、撮影をしたそうだ。
本書では、約半世紀、世界100カ国近くの国々を旅してきた著者が、あまり知られておらず、撮影時に強烈な手ごたえを感じた世界遺産を紹介するフォトドキュメント。
オーストラリア北西部のサバンナに広がる、先住民アボリジニの言葉で「バングル・バングル」と呼ばれる奇岩群は、1983年にテレビ番組で紹介されるまで、同国内でもほとんど知られていなかった秘境。現在、一帯はパーヌルル国立公園として整備されているが、空路で到達できる最寄りの街から250キロ、さらに四輪駆動車以外は立ち入りを禁止されているオフロードを50キロほど走り、ようやく公園のゲートにたどり着くという。
バングル・バングルの奇岩は、オレンジと黒の横縞模様をしており、浸食によってドーム状の地形が見渡す限り続く。その横縞模様は、微生物の繁殖が比較的行われやすかった粘土層と、鉄分を多く含んだオレンジ色の砂岩層が交互に重なって形成されたそうだ。
ほかにも、80.8度の地球上の最高気温を記録したことがあるイランの「ルート砂漠」や、長さ8キロの海岸線を4万本もの柱状節理岩が埋め尽くすイギリスの「ジャイアンツ・コーズウェー(巨人の石道)」など、まずは自然の造形美と地球史が刻まれた自然遺産を紹介。
さらに、赤い凝灰岩を垂直に彫り抜いて建造したエチオピア正教の岩窟教会群「ラリベラ」や、ギリシャ北西部の山岳にそびえる絶壁の巨岩の上に立つギリシャ正教の修道院群「メテオラ」、官能的な男女の交歓像(ミトゥナ像)が壁一面を埋め尽くすインド「カジュラーホのヒンズー教寺院群」などの「祈りと巡礼の地」、そして冒頭に記した「タッシリ・ナジェール」や、エジプト文明末期のエジプト第25王朝の首都が置かれた現在のスーダン北部に建造された小さなピラミッドを含む「ゲベル・バルカルとナパタ地域の遺跡群」といった「古代遺跡」など、5つのテーマで55の世界遺産をめぐる。
気安く足を運べる場所にはない「世界遺産」も数多くあり、それがますます旅情を誘う。
(クレヴィス 2970円)