「海賊たちは黄金を目指す」キース・トムスン著 杉田七重訳

公開日: 更新日:

「海賊たちは黄金を目指す」キース・トムスン著 杉田七重訳

 冒険物語や映画でおなじみのカリブの海賊のリアルな生活を描いたノンフィクション。海賊の中には、まめに航海日誌をつけていた者たちがいた。本作はある海賊団に属していた7人の日誌をつなぎ合わせ、客観的資料も参照して冒険譚風に構成されている。

 17世紀後半、バッカニアと呼ばれた海賊たちがいた。彼らはスペインが中南米の植民地で搾取した金銀財宝を狙って、町や商船を襲撃してまわった。命知らずの強者たちの実生活はかなり悲惨だ。寝るのは船底に吊るしたハンモック。めったに体を洗わない。食料がつきれば飢えと渇きに苛まれ、脱水症状や壊血病に苦しむ。ケガをすれば甲板上で麻酔なしの手術となるが、船医の道具は大工道具さながら。

 戦いの場は海の上とは限らない。黄金を手に入れるためなら未開のジャングルを踏破し、ワニのいる川でカヌーを漕ぐ。嵐もあれば凍える寒さもある。最悪の状況に置かれているとき日誌は短く、シンプルになる。


 海賊は違法行為だから、逮捕、絞首刑も覚悟の上。「絞首刑になるために生まれてきた人間は、溺れ死にはしない」と豪語する者もいる。ときに仲間割れや反乱が起こるが、海賊集団は意外に民主的で、何事も議論で解決する。アウトローたちの間には階級も差別もない。

 日誌の書き手のひとりは、世界的な博物学者、ウィリアム・ダンピア。著書「最新世界周航記」はダーウィンも読んだといわれている。バジル・リングローズは優秀な数学者で語学堪能。ライオネル・ウェイファーは外科医。故国イングランドでそれなりの人生を送れそうなのに、なぜ彼らは海賊になったのか。個人ヒストリーにも触れている。

「短いながらも愉快な人生」というのが海賊たちのモットーだった。危険と隣り合わせだからこそ、人生はエキサイティング。冒険を求めてやまない男たちの息づかいが、彼らの残した文章から聞こえてくる。

(東京創元社 2970円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 2

    野呂佳代が出るドラマに《ハズレなし》?「エンジェルフライト」古沢良太脚本は“家康”より“アネゴ”がハマる

  3. 3

    岡田有希子さん衝撃の死から38年…所属事務所社長が語っていた「日記風ノートに刻まれた真相」

  4. 4

    「アンメット」のせいで医療ドラマを見る目が厳しい? 二宮和也「ブラックペアン2」も《期待外れ》の声が…

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希にまさかの「重症説」…抹消から1カ月音沙汰ナシで飛び交うさまざまな声

  1. 6

    【特別対談】南野陽子×松尾潔(3)亡き岡田有希子との思い出、「秋からも、そばにいて」制作秘話

  2. 7

    「鬼」と化しも憎まれない 村井美樹の生真面目なひたむきさ

  3. 8

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 9

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  5. 10

    松本若菜「西園寺さん」既視感満載でも好評なワケ “フジ月9”目黒蓮と松村北斗《旧ジャニがパパ役》対決の行方