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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

MoMoBooks(モモブックス)(大阪・九条)ステキな応援団がいる築70余年の長屋の本屋

公開日: 更新日:

 店頭で、「いらっしゃい。いい店やからね、ゆっくりしていって」と御年80歳オーバー(推定)の女性。ステキな応援団ができている模様。大阪市西区の一隅に残る、おそらく築70余年の長屋に、今年3月オープンした新刊の本屋さん。応援団は、同じ長屋の住人だそう。

「ライブハウスでイベント企画を長くやってきたんですが、敷居の低い形で“文化的なこと”を発信したくて」が、店主・松井良太さん(37)の開業動機。ジュンク堂のカリスマ、福嶋聡さんの下で修業したとも聞いて期待感が跳ね上がる。店名は、デザイナーの愛妻、桃子さんの名前から。

 正面の棚に「〈悪の凡庸さ〉を問い直す」が2列。その右下に「笠置シヅ子」。憎いね~とつぶやくと、「でしょ!」と鈍色の柱が反応した(ような気がした)。

 絵本棚に懐かしき名著「あるあさ、ぼくは」、復刊してたんだー。コミック棚に「つつがない生活」、気になってたのよー。食の棚に「発酵食品と戦争」、人権ぽい棚に「在日韓国人になる」、一言で言えない棚に「孤独の愉しみ方」。片っ端から手が出そうになる本ばかりが並んでいる。大手出版社、弱小出版社の垣根なく。

「出版不況の影響で直取引できる出版社が増えたおかげ」などと、ちょっと業界話も教えてもらう。

個性的な自費出版誌も…

 片や個性的なジン(自費出版誌)もずらり。紐とじの「共同体研究記」を手に取ると、「南インドのオーロヴィルという町に助け合いの精神が残っていてそれを日本にどう持って帰るか。共同体研究者の川崎光克さんが書いた……」と松井さん。刺さった。買おう。

 さらに刺さったのは、応接間のような2階で展開中(10月22日まで)の「Pヴァイン」という出版社のフェアにあった「BLUES FOR LADY DAY」。Pヴァインは音楽レーベル。音楽を切り口に気骨あるテーマの出版を手がけているとのこと。その一冊が、「LADY DAY」ことビリー・ホリデイの伝記漫画だったのだ。「壮絶な人生をシリアスになりすぎない絵で……」に始まる松井さんの話に、同行カメラマン共々身を乗り出した。

◆大阪市西区本田4-9-13/地下鉄中央線・阪神なんば線九条駅から徒歩5分/℡06.7664.6313/11~20時、月曜休み

ウチで売れている本

女の子のからだえほん」「男の子のからだえほん」マティルド・ボディほか作・絵艮香織監修、河野彩訳

「お客さんに『性に関する本がほしい』とリクエストされて、探して、見つけました。フランスで女の子を持つ2人の母親がクラウドファンディングで制作した性教育の絵本2冊。絵としてはモロですが、体の構造、思春期、性自認、性的指向、性的同意、愛など大切なことを広く扱った良書。子どもに性を教えるときのために、先に自分が読んでおきたいと、買っていかれます」

(パイ・インターナショナル 1870円)

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