葉々社(梅屋敷)「別のお客さんの顔を思い浮かべて2冊取り寄せたりします」
京急蒲田駅の一つ手前、梅屋敷駅から商店街をほんの少し歩いて右折。「本」と書いた若葉色の暖簾が目印だ。入って正面に、「サルトル 嘔吐(新訳)」「フェルナンド・ペソア伝」「無知の涙」「死刑と日本人」など硬派な本が並ぶ。その先には40冊ほどのくくりで戦争、政治、差別、歴史、人権、戦後史、ジェンダーなどの分野の本が連なる。店主とがっている? あにはからんや。
「考えるきっかけになる本を選んで置いています。合う人には合う、合わない人は5秒で帰っていかれますねー(笑)」と店主・小谷輝之さんの口調はとても穏やかだ。
前職はカメラ雑誌を発行する出版社の編集者。シンガポールに赴任し、デジタル分野を担当していたとき、「やっぱり紙(の本)が好き」とわれに返ったのが開業の発端とお話しくださる。昨年4月、50歳で「葉々社」を開いた。
「ご自身が“本読み”なんでしょ?」と話を振ると、多数の付箋が付いた本の塊を見せてくれ、「毎夜12時から本を読むと決めてるんです。読んだ本から言葉を抜き出してSNS発信したり、店内でお客さんに案内したりも……」。
10坪に新刊が2500冊!
「じゃあ、私にも推し本を」と呟くと、小谷さんはすぐさまキム・チョヨプ、キム・ウォニョン著「サイボーグになる」と斉藤道雄著「手話を生きる」を棚から抜く。前者は障害のあるSF作家と俳優・弁護士の2人が身体性とテクノロジーを語った本、後者は手話に分け入っていくルポルタージュと前のめりに説明してくれ、
「どちらも目下、お客さんに積極的アピール中。人の心に土足で踏み込むのが得意な関西人なので(笑)」と言った後、「客注(店にない本をお客が注文する)」があったら、そのお客さんに内容を聞いて、別のお客さんの顔を思い浮かべて2冊取り寄せたりします」って、お客と店のいい関係、始まっていますね!
10坪にそうした新刊が2500冊。奥に、ちゃぶ台のある小上がりがあり、古本と「貸し棚」とギャラリースペース、さらに小谷さんが立ち上げた“1人出版社”(社名も葉々社)の狭いが快適そうな作業スペースも。
(住所)大田区大森西6-14-8秀栄荘103
(電話)03-6695-9986
京急梅屋敷駅から徒歩2分/10~20時、月・火曜休み
オススメの1冊
「パトリックと本を読む」ミシェル・クオ著、神田由布子訳
「副タイトルが『絶望から立ち上がるための読書会』。台湾系アメリカ人の法学生と、アメリカのディープサウスと呼ばれる貧困地域に暮らしている男の子のお話です。2020年の出版。自分で読んで『すごくいいな』と思ったので、お客さんに薦めています。今年1年間は長く売ろうとしている一冊です」
(白水社 2860円)