「地球行商人 味の素グリーンベレー」黒木亮著
「地球行商人 味の素グリーンベレー」黒木亮著
8年前までテレビの仕事で、毎週のように飛行機や新幹線に乗っていた。わたしはテレビ局の孫請けの取材係。そんな末端にいても出張経費は会社持ちだった。
今はフリーの文筆家、自腹で出かける身の上だ。高速バスやLCC、ドミトリー宿を駆使している。贅沢はできないが、「経費を会社に出してもらった以上、おめおめと手ぶらでは帰れない。成果を上げなければ」というプレッシャーがないから気楽である。取材がうまくいかなかったら一人でふて寝するだけ!
さて本書は、海外市場の開拓に挑む味の素社員を追ったノンフィクション。舞台は1960年代のフィリピンから始まり、90年代のベトナムと中国、今世紀のナイジェリア、ペルー、インド、エジプト。時間空間ともに広く、読み応えたっぷりだ。
ほこりっぽい喧騒の市場に足を運び、3グラム4円の小袋入り味の素の営業に励む男たち(時代と地域のせいか女性はほとんど登場しない)。はびこる模造品、ラマダンになると無断欠勤する部下、強盗団、革命……さまざまな壁が立ちはだかる。
彼らが派遣される土地はいずれも巨大市場になる可能性を秘めていて、会社からは多額の開拓費が投下されている。おめおめと手ぶらでは帰れない。知恵を絞り靴底をすり減らし用心棒を雇い、なんとかして成果を上げるのだ。はー、会社員ってすごいなー。
読後、本棚から高野秀行著「幻のアフリカ納豆を追え!」を引っ張り出して確認した。味の素に入社しアフリカで納豆を研究した高野さんの幼なじみ、その名は健ちゃん。やっぱりそうだ、この2冊はつながっている!(中央公論新社 2420円)