「世界子守唄紀行」鵜野祐介著
「世界子守唄紀行」鵜野祐介著
わたしは「何かを拾い集めてきて、並べて、愛でたい」という欲求が強い。思えばそんな本ばかり書いてきた。パリのおじさんを集めたり、世界のサッカーサポーターを集めたり、いろんな言語のことわざを並べて絵に描いて悦に入ったり。ちなみに最近は、世界各地の「雨乞いと雨封じ」を細々と集めている。外国出身の友人に会うたびに、なんの脈絡もなく質問を繰り出すのだ。「ところでさ、日本では晴れてほしいときてるてる坊主を吊るすんだけど、あなたが育った辺りはどう?」と。地道な一人収集活動は続く。
そんなわたしにとって本書は憧れの一冊。著者は世界の子守唄を収集する教育人類学者。現地に出かけて歌ってもらったり、海外のラジオから流れる子守唄を録音したり、日本に留学中の学生をつかまえてインタビューしたり、さまざまな方法で子守唄の歌詞とメロディーを集める。その大変さと楽しさを想像するだけでワクワクする。
子守唄の歌詞にはいくつもの類型がある。たとえば寝ない子を脅すパターン。インドネシアでは「寝ないと蚊に刺されるよ」、グアテマラでは「起きているとコヨーテがさらっていくよ」と怖い生き物のバリエーションがおもしろい。赤ちゃんをあやすことばの比較も興味深かった。「ねんねんころりよ」のように「ネンネン」「ナンナ」などn音の繰り返しは中欧、地中海沿岸、フィリピンに見られ、沖縄のあやしことば「ほーいちょが」「ほいほいほい」に似たh音の繰り返しはカナダの先住民やエジプトにあるらしい。
世界はどこまでもつながっている。それを確認したくて今日も本を読む。
(藤原書店 1980円)