リベラル受難
「ルポ リベラル嫌い」津阪直樹著
政治における「失われた30年」は保守化の時代。リベラル嫌悪が若者にまで広まった時代だ。
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「ルポ リベラル嫌い」津阪直樹著
戦後の西ヨーロッパで現在ほど独裁的・強権的な政治勢力が幅を利かせた時代はなかったのではないか。
選挙のたびに極右政党の票の伸びが話題になり、リベラル勢力の政治家や政党に対する強い逆風はいつまでたっても終わる気配を見せない。朝日新聞特派員としてベルギーの首都ブリュッセルに赴任した著者は、現代のヨーロッパ社会に不満を持っている人たち、特にこれまでメディアでホンネを語ることのなかった人々の声を聴きたいと思ったという。
本書はそんな思いから始まった反リベラル時代のルポ。これまで右派や保守の政治勢力というと、年寄りの男たちの集団というイメージだったが、本書を読むとヨーロッパでは若い世代の反リベラルの声がいかに大きいか、いかに街頭に立って集団的に反リベラルをアピールするほど声高な運動になっているかがつぶさにわかる。
2015年11月にパリで起こった爆破テロ事件以来、「欧州VSイスラム」の図式がメディアでも盛んに報じられ、若い世代はカウンターカルチャー世代のリベラリズムへの反感をむき出しにする。チェコでは、父が日本人、母がチェコ人の右翼政治家が人気という話題など危機的な情勢をよく伝えて読みごたえがある。
(亜紀書房 2090円)
「リベラリズムへの不満」フランシス・フクヤマ著 会田弘継訳
「リベラリズムへの不満」フランシス・フクヤマ著 会田弘継訳
冷戦直後の時期に「歴史の終わり」で新保守主義の代表的論客となった著者。当時はリベラル・デモクラシーと自由市場こそが進化の終着点としたが、右派による新自由主義(ネオリベ)の行き過ぎは極端な経済格差を招いたとして新保守から距離を置いた。
著者が信頼を寄せるのは古典的リベラリズム。それに対して戦後アメリカで発達した現代のリベラリズムへの批判が本書の柱となる。特に1960年代の対抗文化は「主流派リベラルの政治」が引き起こしたベトナム戦争への反発からリベラルと社会への順応を敵視し、80年代のレーガン保守主義は国家的な規制を廃するネオリベラリズムの政策によって国家や集団的行動を非難。それらが政府の役割への人々の嫌悪感を強めたという。
著者は中庸の価値を強調し、現代の社会がこれを重んじることはほとんどなくなったと嘆く。個人としても共同体としても「中庸を取り戻す」ことが真のリベラリズムの再生と存続のカギになるのである。
(新潮社 2420円)
「リベラリズム」ポール・ケリー著 佐藤正志ほか訳
「リベラリズム」ポール・ケリー著 佐藤正志ほか訳
出版社の惹句に「リベラルな平等主義の意義を再説する古典的名著」とあるが、原著の刊行は2005年。20年も経たないで古典? と思うのはシロウトだからか。冷戦後のグローバル化や同時多発テロに始まる急激な変化は政治思想の分野にも大きく影響した。特にリベラリズムの不評ぶりを前にすると本書の主張などは「古典」に見えるわけだろう。
著者はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで教壇に立つ政治理論の専門家。その哲学的主張は「すべての個人は平等で、究極の道徳的価値を有する」というもの。反対論者はリベラリズムが権利ばかりを求めると批判するが、リベラルな平等主義者は「最も恵まれない人々に応分の負担で貢献することへの強い責務」があるのだという。
権利と義務が一対になっているからこそ、自分とは異なる他者の自由にも寛容になれるのである。
(新評論 2970円)