紡がれていく恐怖 ~『異形コレクション』~
人類に恩恵をもたらす「肉霊芝」の秘密とは
久永実木彦著『風に吹かれて』。
この作品で描かれる生ける死者の世界は、死者が浮かぶというもの。冒頭の引用文から、スティーブン・キングの『IT』の一場面から着想を得たと窺えます。
人間は死ぬと数日で腐敗が止まり、体内に発生したガスにより<ゾンビ風船>となる。死者は左足の鉄輪に、墓石からロープで繋がれる。遺族が用意した服を身につけて、舞踏会のように宙で揺れている。そんな霊園の墓守が主人公。
風が吹き渡る緑の丘で、小綺麗な衣装で優雅に踊る死者たちは幻想的かつコミカルです。夢に出てきそうだ。
斜線堂有紀著『肉霊芝』。
衛星写真の画像でしか全容を確認できない広大な杜。『風の谷のナウシカ』の腐海をイメージすると分かりやすいかな。ただし杜は植物や菌類ではなく、肉。巨大な肉です。
肉霊芝は死と再生を繰り返しながら人類に恩恵をもたらしていく。新型ウイルスが蔓延すると、感染して免疫を人類へ提供する。また肉霊芝から生み出された臓器は拒絶反応を絶対に起こさない。まさしく完璧な移植用臓器です。
とうぜん管理下に置かれ、研究と分析が進められていく。研究員の主人公が目の当たりにした、肉霊芝の出生の秘密と存在意義、そして最終目的とは──。
物書きとして、良い意味で「やられた」と衝撃を感じることがよくあります。そんな作品に出遭うことも楽しみですが、同業者にとっては怖さでもあるのです。
さて、2カ月に亘る連載でしたが今回が最終回となります。講談社Treeさんと並行して全9回、重なる週一回の連載は初めてだったので良い経験になりました。この場をお借りしてお礼を申し上げます。
みなさんに再びお会いできる機会を楽しみにしています。