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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

「ゆとぴやぶっくす」(南浦和)自分の好きなこと=怪奇幻想・民俗学分野の本を扱おうとオープン

公開日: 更新日:

「大学生のときに神戸の本屋さんでアルバイトしたことが、心の深いところに残っていたのかも。本と関係のない会社に勤めていたんですが、2年前に『これからは好きなことを』と思って勢いで始めました」と、35歳の店主、栃原麦穂さん。その「自分の好きなこと」とは、「怪奇幻想・民俗学」の分野の本を扱うことのようだと、徐々に分かってきた。

 ここは、さいたま市内の住宅街に2022年12月にオープンした「ゆとぴやぶっくす」。10坪ほどの真四角な店内に、センスのよい本棚(マルゲリータという国産ブランドらしい)。推定6000~7000冊がゆったり並んでいる。

「ほとんど古本で、入り口のところだけ新刊です」

“文学的なにおいのあるホラー”好きの店主 壁一面の棚には小泉八雲や夢野久作など

 まず新刊から拝見。フィクション、エッセー、哲学、詩・短歌、ジェンダー、映画芸術分野などがしっかり。「山の怪奇 百物語」「埼玉きもの散歩」「宮本常一〈抵抗〉の民俗学」などが並ぶ「埼玉の歴史と文化を歩く」のコーナーに目をとめていると、栃原さんが「ええっと、こちらもどうぞ」と山尾悠子著「初夏ものがたり」をすすめてくれ、「これは山尾悠子の初期ファンタジー作品4作が入ってます」といきおい目が輝いたのが、“栃原さんワールド”の始まり。

 平台には、「奇書が読みたいアライさんの変な本ガイド」や同書に紹介された「陰陽師は式神を使わない」「ラスト・ビジョン」などが平積みだ。壁一面の古本の棚にも、どっこい怪奇幻想・民俗学分野が幅を利かせているもよう。

 いわく「特に好き」な澁澤龍彦はもとより、マルキ・ド・サド、夢野久作、小泉八雲、井上雅彦、種村季弘。周辺を取り囲むように、三島由紀夫、唐十郎らも。「文学的なにおいのあるホラー」が好みとのことで、その方向性をかぎ取ったご近所さんたちが「買い取り」として持ち込んでいるって、さすがだな。

 レジ横の壁に芯の強そうな女性のモノクロ写真が張られているぞ、と近寄れば、若き日の李麗仙。状況劇場の楽屋写真で、本の買い取りにくっついてきたそう。

「懐かしい雰囲気と、昔好きだった本を味わいに来てください」

◇さいたま市南区文蔵2-14-2 伸和ハイツ103/JR京浜東北線南浦和駅から徒歩5分/12~19時、火曜休み・たまに不定休あり

ウチの推し本

「レタイトナイト」香山哲著

「北方の国レタイトに住む少年が主人公のマンガ。ファンタジーな世界観ですが、学校に行かずに、そしてお金を稼がずに独り立ちするなど、実際的なことがテーマとなっていて、生き方について考えさせられます。著者の香山さんは、いま、ベルリン在住ですが、以前は神戸で雑貨屋さんもされていました。私は、関西で過ごした大学時代に出会ってファンになりました」

(トゥーヴァージンズ 990円)

【連載】本屋はワンダーランドだ!

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