日記屋 月日(下北沢)永井荷風、竹久夢二ら往年の作家から新刊、そしてジンまで日記本がずらり
小田急線の地上線路跡に飲食店や物販店が入った、しゃれた施設「ボーナス トラック」ができたのは2020年の4月。その中の1軒が「日記屋 月日」だ。「開店4日後に緊急事態宣言に先立ち休業。大変でしたが、3カ月ほどで落ち着き、その後はなんとか」と店長の栗本凌太郎さん(27)。5坪だが、コーヒースタンドを併設し、テラス席も。伺った日、ドリンクを買うお客がひっきりなしだった。
「著名人や個人が書いた日記本を置いています。購入後はドリンク片手にお読みいただけます」
毎日トークイベントを開く「本屋B&B」と同じく、ブックコーディネーター内沼晋太郎さんの経営。17年ごろ、文学フリマに日記の出展が増えたと気付き、「日記好きな人が集える場を」と考えた。一方、栗本さんは、「ぶらぶらしていたとき、“鍵付き”の日記をネットに書いていた大学時代の友達が『読む?』と誘ってくれ、救われた」そうだ。救われた?
「日記の書き手にも、自分と同じように今日という日があった──と安心感を得たんです」
「文章にも生活にも優劣はないんです」
入り口からコーヒースタンドのカウンターの上部を見ると、永井荷風著「断腸亭日乗」をはじめ、竹久夢二、岸田劉生、徳川夢声らの往年の日記がずらり。「亡くなってからの出版も、本人の『今を生きている。過去は過去』との思いによる生前の出版もあります」と栗本さん。そうか、日記本は昔から出ていたのだ。
「戦没学徒 林尹夫日記」「リンドグレーンの戦争日記」に並んで、「すごく売れている」という「ガザ日記」。その左手に「コロナ禍日記」や「武漢支援日記」。はたまた「アンネの日記」。と、まず硬派モノに目がいったが、続いて新刊のヴィーラ・ヒラナンダニ著「夜の日記」、村井理子著「ある翻訳家の取り憑かれた日常」など。さらに、串田孫一の「日記」、「ボブ・グリーンの父親日記」など次々と手に取る。そして一番奥に、ジン(個人の自主制作本)がずらり。
「日記は日付ごとに区切られる生活の記録。文章にも生活にも優劣はないんです」との栗本さんの言葉に、“日記愛”を感じまくった。
◆世田谷区代田2-36-12 BONUS TRACK SOHO9/小田急線・京王井の頭線下北沢駅から徒歩6分、小田急線世田谷代田駅から徒歩5分/8~19時、無休(年末年始は休み)
ウチの推し本
「誕生日の日記」阿久津隆ほか著
「当店のレーベルの1冊目。7月に発行しました。ウチで開いている、日記出版のためのワークショップのファシリテーターになってくださった詩人や映画監督、写真家ら15人が、自分の誕生日をどう過ごし、何を思ったかなどをつづった日記です。読むと、うなずいたり、心が軽くなったりするかも。文庫本サイズで、銀色と赤色の文字を箔押しした装丁です」
(株式会社 日記屋 月日 2530円)